日本では昇進しても幸福度は上昇しないし、健康度は悪化する
日本の研究を見ると、次の3つの結果が得られています(*6)。
1つ目は、「管理職に昇進しても幸福度は上昇しない」というものです。この結果は男女両方に共通しており、昇進1年前から昇進3年後時点まで幸福度の増加傾向は確認できませんでした。
「管理職に昇進することが幸せにつながる」という明確なエビデンスはなかったのです。
2つ目は、男女とも管理職で働くことで年収が増加したのですが、所得に対する満足度は上昇していませんでした。年収は増えたけど、満足していない。これは、管理職で働くことの金銭的な報酬が十分ではない可能性を示しています。
また、管理職で働く女性のみの場合で、余暇時間満足度と仕事満足度が低下していました。この結果は、管理職で働く負担が女性で特に大きい可能性を示唆しています。
3つ目は、女性では管理職に昇進した2年後、男性では管理職に昇進した1~3年後に自己評価による健康度が悪化していました(図表1)。
以上の結果をまとめると、「日本では管理職に昇進しても幸福度は上昇しないし、健康状態は悪化する」と言えるでしょう。
(*6)佐藤一磨(2022)「管理職での就業は主観的厚生と健康にどのような影響を及ぼしたのか」PDRC Discussion Paper Series, DP2022-002,
昇進しても幸福度が上昇しない理由
管理職に昇進しても幸福度が上昇しない理由として、仕事から得られる報酬と負担が相殺しあっている可能性が考えられます。
管理職へ昇進すれば確かに年収が上がりますし、対外的な地位も向上します。地位が高くなることによって達成感を得ることができるでしょう。また、家族がいれば昇進の喜びを分かち合うこともできます。
しかし、同時に業務量や労働時間、責任が増え、苦しくなっているのではないでしょうか。
自分の仕事に加え、部下のマネジメント業務も加わり、やることは増えていきます。また、近年ではセクハラ・パワハラにならないよう注意も必要となるため、神経をすり減らすことも増えているでしょう。
さらに、働き方改革関連法の施行によって時間外労働の上限規制が強化され、残業がしにくくなっている中、終わらなかった仕事を管理職が引き受けている可能性があります。これも管理職の負担を増大させる一因となっていると考えられます。
このように、管理職になることのプラスの効果とマイナスの効果が相殺しあい、幸福度が上昇していないと考えられます。
管理職の待遇改善が必要
このような状況が続けば、男女問わず管理職になりたいと考える人が減ってしまう恐れがあります。特に女性の管理職への昇進は、政策的な視点から重要な論点です。
この課題に対処するためにも、管理職の労働環境の改善が重要になってきます。
まず、業務量や労働時間の軽減を検討する必要があります。これに加えて、金銭的な報酬も増加させる必要があるでしょう。
「なんとか管理職に昇進したのに、大変なだけで割に合わない」このような実感をもたれないためにも、管理職の待遇改善が求められます。