こうなると、追い詰められたプーチン氏は、戦争を早く終結させるために、禁断の手を使うかもしれない。さすがに核兵器を用いることはないだろうが、ジュネーブ条約で禁止されている生物・化学兵器を使用することは十分に考えられる。ロシアはシリアでもこれらの兵器を使っており、ウクライナで同じことをしても不思議ではないのだ。戦争が長引けば長引くほど、その恐れは高まってくると言える。

侵攻時に描いたシナリオは崩壊した

さて、2月24日に始まったロシアのウクライナに対する軍事侵攻は、いつどのようなかたちで終結するのだろうか。戦争では何が起こるかわからないので、私も断言することはできない。

そこで、ここではいくつかの可能性を検証してみることにする。

まず、ウクライナ軍を降伏させてゼレンスキー氏を排除し、その後に親ロシアの傀儡政権を樹立して非武装、非軍事化を行い、既存の原子炉はIAEA(国際原子力機関)のような国際機関に監視させる、さらにドネツクとルガンスクだけでなく、クリミアの独立も達成するという、侵攻当初にプーチン氏が想定していたであろう結末はなくなった。

これまでの戦い方を見ていると、ウクライナ軍の士気は高く、たとえ首都キーウをロシア軍に蹂躙されても、そう簡単に「参りました」とは言わないと思われる。また、今や英雄となったゼレンスキー氏を殺害でもしようものなら、そのときは世界中がロシアの敵に回るので、それもできない。

ちなみに、ロシアがキーウまで進軍した本当の狙いは、クリミア住人の年金の財源ではないかと私はにらんでいる。というのも、2014年に向こうから頼まれてクリミアを併合したのはいいが、ウクライナはクリミア住民の年金基金を渡さなかったため、ロシアがクリミア住民約270万人分の年金を負担しなければならなくなってしまったからだ。

自国の年金事情も決して楽ではないロシアに、そんな余裕があるはずがない。そこで、この機に乗じてキーウを攻略し、ウクライナの「米びつ」を奪おうとしたのだ。

だが、もちろんそれも今となっては“絵に描いた餅”だ。

講和成立のカギを握るトルコとイスラエル

そうなると、ロシアはどこかのタイミングで、ウクライナと講和条約を結ぶよりほかないということになる。もともとゼレンスキー氏はトップ同士の話し合いによる決着を望んでおり、現時点ではそれをプーチン氏が拒否している状態だが、結局、出ていかざるを得なくなるだろう。

そこでキーマンとなりそうなのが、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領やイスラエルのナフタリ・ベネット首相だ。