閉塞感①1人の人間として重視されている感覚の薄さ

採用、配置・異動、時間、場所、コミュニケーション、健康管理……。ぼくは薄々気がついていました。こうした会社のしくみにおいて、個性が重視されていないことが、じわじわとぼくの「1人の人間として重視されている感覚」を奪っている、ということに。

チームワークの概念
写真=iStock.com/SergeyNivens
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同期、また他社にいる大学時代の同級生と話しても、みんな似たような働きづらさを抱えていて、すでに辞めている人もいました。「これは決してトヨタだけの問題ではなく、日本の会社のしくみが引き起こす問題ではないのか」いつからか、そんな考えが頭をよぎるようになりました。

それでは、こうした会社のしくみはだれが改善するのか。

それはまさに、いまぼくが所属している人事部であるはずでした。ぼくはふと、人事部に配属された日にもらった言葉を思い出しました。

「人事の仕事は、社員が幸せに、いきいきと働ける環境をつくることだ」

「むしろ社員を不幸にしているのでは」疑念が広がった

人事の仕事は、社員が幸せに働ける環境をつくること。しかし、少なくともぼくの周りには、いきいきと働けていない人たちがいました。

ぼくは、この矛盾をどう受け止めればよかったのでしょうか。

「社員が幸せに働けるように、ぼくたち人事が一生懸命につくってきたはずの会社のしくみが、むしろ社員を不幸にしているのではないか」

そんな疑念が、ぼくの頭のなかに広がっていきました。

もやもやが最高潮に達したころ、四半期に一度の評価面談がありました。

上司からのフィードバックは、「現場の声を聴いてよくがんばっている、これからも『現地現物』でがんばってくれ」というものでした。

せっかくの機会だと思い、未熟な知識と経験をかきあつめ、ぼくは思いきって理想を話してみました。「もっと1人ひとりの個性を大事にする、主体性をもって働ける会社に変えていけないか」すると、当時の上司はこう言いました。

「いつか髙木が偉くなれば、そういうのもできるようになるから」
「はい、これからもがんばります」

それだけ返事をして、ぼくは静かに部屋を出ました。