真性リケジョにはつらい、医師という仕事

もちろん、女性が医師を目指すことは悪くない。だが、その道は甘くない。

理系最難関学部である医学部に晴れて合格した学生は、入学後も勉強漬けである。特に生物系講義で暗記を強いられる。医師国家試験に頻出の「筋肉名」「ウイルスの種類」「薬品の作用機序」など膨大な項目をコツコツ覚える必要があり、数学や物理が得意な“真性理系タイプ”にはつらいカリキュラムである。

さらに、現場の医師はありとあらゆる市井の人々への対処を求められる。「何か薬を飲みましたか?」と聞けば「白く丸い薬」と答える高齢認知症の患者。入院希望を断ると、時に「何かあったら責任取れるのか!」とすごむ家族もいる。さらに、診断書や保健所への届出など、いまだ紙と印鑑ベースの大量の書類作成業務も多い。非デジタル的な作業のオンパレードと言っていいだろう。

また、病院という職場は看護師・薬剤師・医療事務など数の上では圧倒的に女性が多く、女医率も増加している。中高年の男性医師に比べてソフトなイメージもあるが、筆者の経験からいえば、女性の人間関係に散見される、水面下のドロドロや抗争は後を絶たず、こちらもロジカルシンキングがモットーの真性リケジョにはつらい要素となるかもしれない。

窓の外を険しい表情で見つめる医療従事者の女性
写真=iStock.com/Plyushkin
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高学力リケジョには国際性アピール

冒頭で述べた通り、工学部の女子学生を増やすのは国の命題である。「医学部も狙える」レベルの高学力層に、工学部(特に情報系)にシフトしてもらうにはどうしたらいいのか。筆者はその魅力を「国際性・将来性」によってアピールするといいと考えている。

医師は国が与える医師免許を持ち、準公務員のような立場となる。現在のところ「日本で唯一、年収1000万円が保証されたライセンス」とも言われる。しかし、少子高齢化に伴い社会保障費の見直しが行われれば待遇低下は必至で、そうなった場合、国外での就労は困難だ。

コロナ渦中の2020年春、「不要不急の診療は中止」となり医師アルバイト相場は大きく値崩れして「時給2000円案件」も登場し、現在もコロナ前の水準には回復していない。近未来にAIが簡単な診療を担うようになれば、「ゆるふわ女医は時給2000円」は絵空事ではない。実は医師は今後も安泰とは限らないのだ。

それに対して、工学部などで学び確かなITスキルを身に付ければ、GAFAなどの外資系企業で国際的に活躍し、医師以上の収入を得ることも可能だ。高学力女子高生の多くは英語が得意で、国際的な職業に憧れる者もいる。また、ITフリーランスなど多様な働き方を選択できる。もし、定額長時間労働を強要されたら、さっさと会社を見切って転職して、ワークライフバランスも保持しやすい。今後、日本経済が没落しても、IT系ならば海外からリモートで仕事を請け負うことが可能だろう。

高偏差値の女子を工学部に誘導するために、大学側は例えば、ホームページや女子高生向けオープンキャンパスなどでGAFAやシリコンバレーで働く日本人女性ITエンジニアに(Zoomなどで)登場してもらうといいのではないか。医学部にはない国際的ネットワーキングや将来性をアピールすれば、「数学大好きだけど親教師の勧めで医学部志望」の女子の心が動くかもしれない。