新生児死亡…主治医の責任は重いが、背景にあるのは
「ご遺族に対しまして取り返しのつかないことを引き起こしてしまいました。心よりお詫びを申し上げます」
石川県輪島市の市立輪島病院は5月6日、市長や病院長が記者会見でこう陳謝した。取り返しのつかないこととは、2021年6月、同病院の産婦人科医が不適切な診療を続けたことで、生まれたばかりの赤ちゃんが死亡したことだ(母親は健康を回復)。
記者会見によると「市立輪島病院に入院した妊娠35週の妊婦が、胎盤早期剝離という病気であることに気づかず主治医が有給休暇を取得し、休暇を切り上げて病院に戻った後も不適切な薬剤を投与し、『帝王切開を行わない』など間違った診療行為を続けた」とされ「赤ちゃんは仮死状態で生まれ、別の病院に搬送されましたが死亡」とのことである。
病院長によれば、市議会で市長が事故の経緯を説明し、遺族と5825万円余りの賠償金を支払うことで合意したという。
この会見で市は事故の背景のひとつに産科医不足を挙げた。奥能登2市2町の産科医は同病院の件の主治医1人だけだった。確かに、病院ホームページを確認するとこの男性医師1人のみで、非常勤医師の応援も見当たらない。2020年の分娩数は119件、3日に1度のペースで分娩があったことになる。
中日新聞によれば、「主治医は2005年夏から16年8カ月勤務。時間外労働は毎月10時間ほどだったが、急患や患者の出産に備え、休日も待機要員として病院の近くにいる必要があった。院長は会見で『医師に負担がかかっているのは事実。1~4月も夜の帝王切開による緊急手術が3件あり、ストレスがかかっている状態だ」と説明したという。
今回の主治医の対応は、後から考えれば不手際が多かった。ただ、その一方で、主治医が病院に“拘束”され、心から休むことのできない労働環境だったとも推測できる。
また、赤ちゃんの母親は「東京からの里帰り出産」と報じられている。地方の脆弱な医療体制を知らず、都市部の手厚い診療体制を期待していたが応えてもらえず、不満や齟齬をきたしていたのかもしれない。