これから日本人の老後はどうなるのか。不動産プロデューサーの牧野知弘さんは「大量相続で家が余るようになれば、高齢者もワンルームマンションを借りられるようになる。相続税を払えず、自宅を追われた『相続難民』の住まいになるかもしれない」という。ジャーナリストの河合雅司さんとの対談をまとめた『2030年の東京』(祥伝社新書)より、一部を紹介する――。
透明なカーテンで窓越しに見える引退した男性のシルエット
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老後資金が足りない人がすぐにできる自衛手段

【河合】もし老後資金が足りなければ、自衛手段を講じなければなりません。それは主に三つあります。①働けるうちは働くこと、②可能な人は資産運用すること、③自分でできることを増やして家計支出を抑えること――です。このうち、誰もがすぐにできるのは③です。

どんなことでも業者や他人に依頼すれば、サービス料を取られます。収入が少なくなった高齢期にこうした手数料が積み重なると家計を圧迫します。しかしながら、若いうちからさまざまな経験を積んで自分でできることを増やしておけば、無駄な出費は減らせます。さらに私が勧めているのが、「スキルの交換」です。

たとえば、大工仕事が得意なおじいさんと裁縫さいほうが得意なおばあさんが近くに住んでいるとします。それぞれが得意とするスキルを交換する形で助け合えば、業者にお金を払わないですみます。こうしたスキルの交換の仕組みを地域全体に根づかせておくことです。大概のことは、お金をかけずにできるようになりますから。このような暮らしの知恵を組み込んでいくことが、これからはとても重要となります。

【牧野】今までは1軒1軒の世帯の所得のなかで経済が完結し、世帯間の有機的なつながりはありませんでした。これを若年層の単身世帯も、高齢者世帯も、ファミリー世帯もつながることで、スキルは豊富になります。

わかりやすく言えば、コミュニティ作りです。これはマンションでもできます。むしろ、これからの共同住宅は、みんながシェアする機能がどれほど含まれているかが「売り」になるかもしれません。高齢化が進むニュータウンでも、それができれば、出ていく人は少なくなるでしょう。魅力的なコミュニティ=魅力的な街づくりとなります。

【河合】それが理想というより、そうせざるを得ないのです。昭和30年代くらいまでは東京でも味噌や醤油を貸し借りしたり、自分の庭の雑草を取るついでに隣の雑草をむしったりしていました。多くの人が貧しかったので、当たり前のことでした。こうした庶民同士のゆるやかなきずなを、ある程度取り戻していくしか残された手はないと思います。