「一発逆転で資産を増やしてやろう」は要注意
【河合】幸運にも元手のある人は、前述の自衛手段「②資産運用」も選択肢となります。わずかながらも運用益が定期的に入ってくるのは心強いものです。
注意すべきはハイリスク・ハイリターンの金融商品に、定年退職後に手を出すことです。万が一、運用損となった場合、若い頃であれば収入もそれなりにあるので当座の暮らしに困窮することもありませんし、損した分を取り戻す時間的な余裕もあります。しかし、収入が減ってしまった高齢期の運用では、それができません。
一攫千金を狙って退職金を原資に投資した結果、「株が暴落して大損をしてしまった」などという失敗談も聞きます。それこそ取り返しのつかないこととなりかねません。リスクを覚悟した資産運用は、現役時代にすませておくことです。高齢期にも続けるのであれば限度額を決めておくか、リスクの大きくない商品を選ぶのが無難です。
【牧野】あせって無理をする典型ですね。FX(外国為替証拠金取引)に成功した人が書いた本などを読み、「俺も一発逆転で資産を大いに増やしてやろう」などと実行に移してしまう例です。退職金を元手にワンルームマンションやアパートに投資する人もいます。いずれも昭和・平成の発想です。会社員は一度に多額のおカネを手にしたことがないせいか、気ばかりが大きくなって失敗するのです。
おっしゃる通り、この年代になるとリカバリーできる可能性はほぼゼロになります。自分の身の丈にあった老後設計が求められます。
東京圏がこれから迎える大量相続時代
【牧野】今後の日本、特に東京圏では大量相続時代を迎えます。高齢者が多く、死亡者が増えれば、相続が大量発生するのは理の当然です。
【河合】相続税を納めている人は案外少ないものです。基礎控除額は2015年、「3000万円+600万円×法定相続人の数」へと変更となり、大幅に引き下げられたため、かつて4%台前半で推移していた死亡者数に対する課税件数の割合は同年以降、倍増しました。
ただ倍増したと言っても、元の数字が小さいので大したことはありません。公益財団法人生命保険文化センターによれば、2019年の全国平均は8.3%です。ただ、地価が高く高所得者も多い東京都ではこの割合が高く、6人に1人が該当するとされます。