生まれた家で大きく左右される「親ガチャ」の世界

【牧野】相続人が1人の場合、控除可能なのは遺産総額3600万円までですが、これは確かに都内、特に都心部に一戸建てを持っていると、面積や場所にもよりますが、オーバーすることが多いです。たとえ築40年の木造住宅で上物うわもの(建物)の価値が0だったとしても、土地代だけでオーバーしてしまいます。

ただ、この土地代というのが曲者で、路線価×坪数で評価額が出ますが、なかには売れない土地もあって、処分しようがないので税金が払えずに物納ぶつのうとなります。しかし物納にはさまざまな条件があって、簡単ではありません。

ですから今後、相続はしたものの預貯金がないために税金が払えない「相続難民」が出てくる可能性が大いにあります。不動産だけではなく、金融資産も東京圏にかたよっていますから、相続問題も地域偏在があるということになります。

【河合】相続とはある意味、格差社会の象徴です。たまたま資産家の家に生まれただけの話ですから、「親ガチャ」の世界です。しかし、政府は今後、資産課税強化の方向に行くと思います。社会保障費の伸びが著しいのに国民の消費税アレルギーは大きく、なかなか税率引き上げとはなりませんからね。

親の財産を子供が受け継ぐ“常識”も変わっていく

【牧野】 不動産と相続は密接な関係にあります。実は、相続の評価額は、現金よりも同じ金額を不動産で持つほうが安くなることが多いのです。というのも、土地は前述の路線価で評価されますが、路線価は時価と言われる公示価格のおよそ8割の水準に設定されています。

また、建物は固定資産税の評価額が採用されますが、再調達価格の7割程度で評価され、減価償却分も考慮されるため、実際の土地・建物の時価よりもかなり安くなるからです。こうした不動産の持つ特性が、金融資産を貯め込んだ高齢富裕層の人気を博しています。そして、それが東京の新築マンションマーケットをゆがめる構造になっています。

【河合】「親の遺産を相続すれば老後資金は何とかなる」など、らぬたぬきの皮算用をしている人も多いことでしょう。「相続=親の財産を子供が受け継ぐ」と考えている人が多いと思いますが、2030年頃になると、こうした“常識”もすたれることになるかもしれません。「人生100年」と言うほどに長寿となり、親が90代半ばで子供が70代というケースが珍しくなくなるからです。