東大入学式の祝辞でネット炎上
2022年4月12日、東京大学の入学式における祝辞が波紋を呼んでいる。
映画監督の河瀨直美氏が「ロシアを悪者にすることは簡単」「悪を存在させることで安心していないだろうか」「一方的な側からの意見に左右されて、本質を見誤っていないだろうか」とロシア擁護と解釈されかねないスピーチがあり、批判が相次いだ。
この発言を受けて、SNSではさまざまな反応があった。
「ロシア軍がウクライナの一般市民を殺戮している一方で、ウクライナ軍は自国の国土で侵略軍を撃退している(中略)この違いを見分けられない人は、人間としての重要な感性の何かが欠けているか、ウクライナ戦争について無知か」(慶應義塾大学・細谷雄一教授)
「侵略戦争を悪と言えない大学なんて必要ないでしょう」(東京大学・池内恵教授)
大学の存在意義への疑問を呈するほど痛烈なものだった。
2019年入学式では、上野千鶴子氏のスピーチで炎上も
東大入学式の祝辞といえば、2019年にフェミニストで東大名誉教授の上野千鶴子氏が行ったスピーチも、ニュースに取り上げられるなどパンチがあった。
「東京医科大学の入試女性差別」や、「男子東大生の私大女子学生への集団暴行事件」など大学関連の女性差別事件を列挙し、「東大生の女性比率は2割以下」「合コンでは男子学生はもてるが女子学生は退かれる」「東大には東大女子が入れず、他大学の女子のみに参加を認める男子サークルがある」などと例示し、「大学に入る時点ですでに隠れた性差別がある」と指摘した。
SNSでは「これを聞いて入学する女性はすごく勇気付けられると思う」という歓迎コメントがある一方、「祝辞で言う内容なのか?」「伝えたいなら自分で講演会主催しろよ」など否定的な声も目立った。
上野氏の指摘するように、東大生の女性率は低い。2021年データで20.7%である。東大は2011年に「2020年までに女性率30%」という目標を掲げ、女性限定の奨学金や家賃補助、女子中高生向け説明会などを行っているが、今なお達成されていない。
しかしながら筆者の体感では、東大の女性率の低さの最大の因子は「東大に残る女性差別」というより「高学力女子高生の医学部集中」ではないだろうか。
「東大か医学部か」、トップ層高校生ならば一度は悩むものだが、近年は「男は東大/女は医学部」傾向が高い。将来の妊娠・出産を希望する女子学生と保護者は、近年、官僚や大企業総合職のような激務が前提の日本型エリートコースよりも、堅実なライセンス職であり、時短勤務やフリーランスも可能で、出産育児と両立しやすくステータスのある医師を選択することが多い。
2018年に、医大入試での女性受験者などへの減点操作騒動が起きた。その入試改革を経て医大合格者の女性率は増加傾向にある。2021年には過去最高の41.1%に至った。また、2022年の東大理科三類の合格者トップは、開成や灘といった名門男子校ではなく、桜蔭高校(東京都内の私立女子高)の13人だった。女子高首位は史上初だが、「桜蔭生が頑張った」というより、近年のIT産業の発展や国際化を受けて、男子トップ層が理工系や海外大に流出している影響だろう。
河瀨も上野氏も、東大祝辞という大舞台だからこそ、自身の問題意識や思いのたけを世間にアピールできるチャンスと思ったのだろうが、入学式の主役は新入生であり来賓ではないのだ。