地方や非正規や非大卒で頑張る人に寄り添う習慣を
ところが、その女医は「群馬……何もないよね」と断ってきました。よくよく聞けば「おしゃれなクリニックで丸の内商社の一般職女性社員を診察」「帰路にショッピングやカフェ巡り」のような仕事を探していたようでした。
そのことをとやかく言うつもりはありません。ただ、確実に言えるのは彼女の価値観では「働く女性」とは、例えば「群馬県の工場勤務」や「丸の内ビルの清掃業」の人は含まれていないということです。自分の級友や親族のような社会的レベルの人としか交流したくない。東京以外は自分の生活環境として眼中にない。その意識のあり方にいささか残念な思いがしました。
さて、皆さんは東京大学を卒業した後、中央官庁や大企業などに就職され、やがては国や企業の中枢を担う方も多いでしょう。「東大卒業後は米国大学院でMBA」とさらに高みを目指し、起業を目指す人もいるかもしもしれません。また高学歴の同僚や友人と切磋琢磨して、自分と同じように経済的ゆとりのある家庭の出身者と結婚する方も多いはずです。
その一方で、この20年間、日本人の賃金はほとんど変わらず、かつての経済大国はOECD35カ国中22番目となり、韓国以下まで転落しています。皆さんの足元を支える日本の平均的な労働者はさほど豊かではないのです。
今、アメリカや日本を含む世界で格差社会が問題になっています。今回のウクライナ紛争ではロシア国民の超格差社会も明らかになりつつあります。ロシアといえば、モスクワの華やかな街並みや宇宙開発など先進国のイメージがありますが、地方のチェチェンやイングーシ共和国では街灯やアスファルト道路のない地域も珍しくありません。2018年のデータでは、85自治体別の平均年収は「最高1225万円、最低20万円」。実に62倍の格差があると報告されています(日本の都道府県では2.4倍)。
また、皆さんの中には少数ですが、経済的には恵まれず、塾にも行けず、地方で学校の授業と限られた参考書だけで合格を勝ち取った方もいらっしゃるかと思います。個人的には倍の「おめでとう」を申し上げたいです。
私もあまり豊かではない地方の家庭から、国立大医学部に進学し、現在に至ります。チェチェンとは違って「勉強を頑張れば、東大や医学部進学のチャンスがある」という点では、日本社会も捨てたものではありません。入学後に周囲のクラスメイトの生活レベルに戸惑うこともあるでしょうが、「地方や社会の裾野を理解できるのは自分の強み」と考えて頑張ってください。
この度はご入学おめでとうございました。