個人の特性だけではなく職場の雰囲気が影響している

教育と隣接領域とされる保育の現場では、保育者(保育士等)による「マルトリートメント」の事案が1980年代から何度か社会的に注目されてきました。幼児に対して、叩く、つねる、小突く、言うことを聞かない子を怒鳴りつけたり、暴言を吐いたりする、さらに好き嫌いがある子どもの口に無理やり食べ物を押し込む、などです。

植村善太郎氏と松岡恵子氏(2020)による研究論文「保育におけるマルトリートメントと関連する組織要因の探索」では、保育現場におけるマルトリートメント行為は、保育者の個人的な特性のみで説明されるものではなく、周囲の状況が影響していることが言及されています。具体的に言えば、職場の人間関係やチームワークがよい場合には、マルトリートメント行為が減ることが示唆されたのです。

【引用】植村善太郎・松岡恵子「保育におけるマルトリートメントと関連する組織要因の探索」『福岡教育大学紀要』第69号第4分冊、2020年、9-15頁

チームワークは多面的に捉えられる概念ですが、この論文の中では、チームワークを構成する要件として以下の三点が示されています。

①職員同士の情報共有
②保育方法や考え方の統一
③園長や主任のリーダーシップ

手の積み重ね統一とチームワーク
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同研究では、職員間のチームワークやコミュニケーションの重要性が指摘されています。特に、コミュニケーションが少なく、目標や規範が共有されていない組織には「隙間」があり、「同僚に見られている」あるいは「同僚に支えられている」という意識が薄れることが、マルトリートメントを生じやすくするのではないかと分析されていました。さらに、一人がマルトリートメント行為を目にすると、同調者が増えていってしまうというプロセスも存在するのかもしれないとも論じられています。

この研究は保育の現場を対象としたものではありますが、学校教育の現場においても重要な示唆をもたらすものと言えるのではないでしょうか。