そうしたことを考えると、今見てきた転職にまつわる想定外のショックは、私たちにとって「避けるべきもの」というよりも「覚悟するもの」と見たほうがよさそうです。

それよりも大事なことは、そうしたリアリティを乗り越えて、いかによい転職に近づいていけるかです。

他者との対話の減少が転職の成功を遠ざける

中高年の転職をよりよいものにするために、最も大きなポイントを一つ挙げるとするならば、それは「4ない」問題の中の「話さない」問題です。

本書では、中高年になると、他者との交流全般が量的にも質的にも低下してしまうことをすでに見てきました。

他者との交流も対話の機会も減り、自己開示しようとしないというコミュニケーションの薄弱化は、セルフ・アウェアネスを向上させる機会を奪うと述べましたが、それが転職にも大きな影響を与えます。

セルフ・アウェアネスは、中高年で全体的に下がっていく傾向が見られました。また、「内面的」「外面的」の区別で見れば、中高年は特に「外面的自己認識」に偏っていくのです。

人は年齢を重ねて「自己を確立」していくにつれ、自分自身のことを改めて見つめようとはしなくなります。

しかしそれでいて、周囲の人と比較したときに地位や出世の格差が目にとまるようになり、自分の市場価値が低下していないだろうか、などの危惧を抱くようになります。

しかし、「自分が何を実現したいのか」「どんなことで嬉しいと感じるのか」といった内面的なセルフ・アウェアネスは満足のいく転職のためにやはり必要なことです。

「話さない」問題が重要であるのは、こうしたセルフ・アウェアネスを高めるような機会を奪ってしまうからです。