「一人きり」で転職してはならない
中高年の「話さない」傾向は、転職サービスのカウンセリングやアドバイスを受けるときにも現れます。「いいから自分が行ける求人を出してくれ」「なぜ初対面の人間に自分の本音を話さなければいけないのだ」という態度で対話の場に現れる人もしばしば見られます。
特に、今の会社に強い不満があったり、早期退職募集によって会社都合で転職せざるを得ない状況に追い込まれた人は、カウンセラーに強い態度をとったり、必要な情報を十分に話そうとしません。
しかし、そもそも転職相談の相手は、求人情報を引き出すだけの検索窓でも、「自分は何をすればいいのか」という正解を与えてくれる神様でもありません。
それよりも、その人たちとの対話のキャッチボールを通じて自分自身のことを言語化し、客観化し、セルフ・アウェアネスを高めるための機会を与えてくれる相手として見るべきです。
まず転職に悩むミドルにとって必要なことは、「話さない」問題について、意識して乗り越えることです。相談相手とはどんどん積極的に自己開示していく態度で臨みたいものです。
中高年の多くは、カウンセリング全般に対して消極的です。「精神的に問題がある人が受けるもの」といった偏見を持っている人もいます。中高年になるほど、転職相談も含めて自分の仕事を他者に相談する割合は減っていきます。
「話す」ということを通じて、内面的な自己認識と外面的な自己認識を共に高めることによって、「何が自分にとって大事なことなのか」「どんな転職を目指したいのか」という判断をより正確なものにすることができるはずです。
そのために必要なことは、一人で思い悩むことではありません。
少しでも他者に対して自己を開き、不安や弱み、苦悩などを含めて開示していくことからスタートすること。一見遠回りのようですが、これこそがよりよい中高年転職のための近道だと思います。
転職者で以前からの行動習慣を変えた人は37.6%
転職先が見つかったとしても、それは「転職の成功」の半分にしか過ぎません。すぐ辞めてしまったり、全く馴染めないまま引退までの暇つぶしのように働き続けていれば、その転職はよいものとは言えません。
転職後の「年収」だけは維持できたとしても、入社後の職場に適応できなくては意味がありません。「お金のためだから」と割り切って働いたとしても、ずっと不満を溜め続けながら働くことは幸せとは言えません。
転職後の職場への適応にこそ、本書が語ってきた「変われない」問題が立ちはだかるのです。
ポイントは、前職での仕事のやり方や慣習、コミュニケーションのとり方などをいかに「捨てられるか」です。「いかに過去へのこだわりを捨てられるか」こそが中高年の転職後の活躍を左右すると言っても過言ではありません。
こうした慣習の解除は、専門用語で「学習棄却=アンラーニング」といいます(※1)。同じ仕事でも、会社によって仕事のやり方や進め方はかなり異なります。社風も人間関係も、一つとして同じ会社はありません。
これまでの経験やスキルは活かしつつも、それにこだわらないこと、新しく学ぶことを受け入れる必要がありますが、〈変化適応力〉が落ちているとこうしたことができなくなっていきます。
全体では以前からの行動習慣を変えたり新しく始める人は転職者のうち37.6%であり、そうした行動変容を行っている人が組織や業務に早く慣れていることがわかっています。