転職すると生涯賃金は下がる傾向にある
中高年になってから転職を考えるとき、まず気になるのはやはり生活維持に直結する転職後の「お金」のことでしょう。単純に企業からの年収のことだけを言うならば、転職者は生涯年収が下がる傾向にあります。
生涯年収のことだけを考えるならば、転職しないほうが高くなる傾向にあることは、歴然とした事実です。中高年の転職は増えてきましたし、中高年転職を主に扱う転職サービスも増えてきましたが、そのことと給与はまた別の問題です。
もちろん転職しても年収を維持・上げる人がいないわけではありませんが、多くの人のリアルとしては押さえておくべきでしょう。しかし、すでに今の会社に愛想を尽かしていたり、上司との関係が修復不可能になっていたり、自社で早期退職募集がかかっていたりするなど、年収以外にも転職を考えるきっかけは多く存在します。
筆者は、立教大学の中原淳教授とともに、ビジネスパーソンの転職行動についても研究してきました。その中でも中高年の転職に役に立つ知見について、データをもとに議論していきましょう。
ここでも、「話さない」「変われない」といった本書で解き明かしてきた問題系が所々に顔をのぞかせています。
「後悔する転職」には予兆がある
中高年に限らず、今の会社を辞めようとして転職活動を始める人の多くは、転職活動前には想定していなかった厳しい現実に直面することがよくあります。我々はこれを「求職時リアリティ・ショック」と呼んで調査しました。
例えば、ネットで求人情報を探しても応募できそうなものが見当たらなかったり、市場で求められる資格やスキルが自分にはないと気づいたり。
選考プロセスに進んでも、必要な書類がうまく書けなかったり、面接で自分の希望をうまく伝えられなかったり。そもそも転職エージェントが相手をしてくれなかったり、相談相手が見つからなかったり。
転職活動とは、単なる人材の需給マッチングではなく、こうした個別の「うまくいかなさ」と隣り合わせです。
特に、中高年に強く見られる求職時リアリティ・ショックでは、「市場で求められる年齢と自身の年齢とのギャップ」を感じやすくもなります。
本書で述べたとおり、年齢を重ねると転職できなくなる「35歳限界説」は根強くこの国に残っています。
そもそも中高年になると転職が減るのは、日本に限ったことではありません。例えば中高年転職者からは、こんな声が上がりました。
●スキルがあれば、それなりの仕事が見つかると思っていたが、実際にはスキルよりも年齢重視で、希望する職種が見つけられなかった。(52歳・男性・製造業)
●自分の専門分野であるISO9001や環境安全衛生についての求人が非常に少なかった。(42歳・男性・製造業)
●経験が不問となっている企業に応募したが「経験が無いのになぜ応募したのか」と聞かれた。(52歳・男性・医療、福祉)
●自分の培ってきた知識や度量が、世間一般の企業では、どうも少ないらしい。自分が、大企業病に陥っていたようだ。(57歳・男性・卸売業、小売業)
そして、この「求職時リアリティ・ショック」は、「転職しなければよかった」という後悔を引き起こす一因ともなります。
私たちの調査では、強いショックを感じた人の45.9%が、転職後、わずか1年以内に次の転職を希望していたこともわかっています。
「後悔する転職」の前には、こうした「予兆」ともいうべき想定外のショックが待っているということでしょうか。
転職には本当の意味での「プロ」はいません。自分自身の転職というのは、ほとんどの人が人生で数回しか行わないことです。