「怠惰さ」ではなく「学びが職場に偏っている」
世界でも学ばない大人が圧倒的に多い日本、さらにその中でも、中高年が最も学びから離れているということを確認してきました。こうした結果を見て、「日本の中高年はなんと怠け者なんだ」と感じる人もいるでしょう。
しかし、このことを「怠惰さ」といった個人特性のせいにするのは一面的な見方です。問題の根源を「心理」に求める心理還元主義に対抗するのが本書の方針でもありました。
日本人の学ばなさは、そのキャリアの歩み方によって、「学びが職場に偏っている」ことが一因です。
「平等主義・競争主義」的である日本企業の人事管理において、社会人のキャリアのスタートは、国際的にはなかなか見られない実務未経験入社です。入職のときから「具体的職業への就職」ではなくて、「会社という箱への就社」という形で行われます。
未経験でも多くの学生が職につけること、そして長く続く安定雇用と引き換えに、企業主導の異動という形で、自身のキャリアの選択権を企業に明け渡してきました。
実務上は、異動では多くの場合事前の交渉が行われますし、従業員の合意のもとに異動辞令が下されることも多いです。しかし、問題は主導権が企業側にある限り自分の「未来展望」を捉えにくいことです。
筆者が立教大学・中原淳教授と行った「転職学」の研究においても、自分のキャリアの道筋を「運次第」だと捉えている人は、学習意欲が低くなっていました(※10)。
キャリアについて「予習」することができにくい場合、自分で計画的に社外学習するよりも、実際に配属されたあと、現場ごとに先輩や上司から仕事の手ほどきを受けたり、背中を見ながら仕事のやり方を覚えたりするほうが合理的です。