男性中高年にとって社外で学ぶことは夢のまた夢
加えて、日本の正社員には、長時間労働の習慣が根付いています。平日夕方5時に仕事が終わるならば(そしてそれが安定的に予想できるならば)、6時以降は大学院に通って学ぶといったことも可能ですが、多くの正規雇用では難しい生活サイクルです。
とりわけ「残業分離」の負担がのしかかっている多くの男性中高年にとっては夢のまた夢です。
こうして日本の企業の社員たちの学びの場は、「職場」へと偏ることになります。日本企業はオン・ザ・ジョブ・トレーニングを重視し、直接費用のかかる人材育成への投資は先進各国に比べて極めて低いことが知られています。
職場外のOff-JTや教育機関への通学ではなく、未経験から現場で育ち、異動するたびに現場でやり方を学んでいくスタイルこそが日本人の「学び」です。
しかし、OJTを中心とする職場内の経験学習がなお会社員の学びのメインストリームであり続けていることは、現代の状況と照らすと問題含みです。
市場環境の変化が激しい現代においては、職場経験を通じて学んだことが、一人ひとりのキャリアという観点からは、これからも引き続き役に立つとは限りません。
現場で蓄積してきたノウハウや知見の中には、これから「使えないもの」や「使いにくいもの」が増えていくからです。
「漠然とした不安感、自信のなさ」の正体
例えば、ソフトウェアアプリの開発現場では、使用されるプログラミング言語の変遷スピードが加速し、ある言語が別の新しい言語に取って代わられるといったことが頻発しています。
プログラミングそのものを不要とする「ノーコード」と呼ばれる開発手法も広まりつつあります。自動車業界ではコネクテッド(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェアリング(Shared & Services)、電動化(Electric)という四つの頭文字をとった「CASE」のスローガンのもと大きな変革が進んでいます。
そうした事業的な変化には、これまでの内燃系エンジン技術はEV(電気自動車)に変わるといった技術分野の変化も伴います。
他にも、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた「フィンテック(FinTech)」、農業(Agriculture)と技術(Technology)を組み合わせた「アグリテック(AgriTech)」といったテクノロジーを用いた革新運動は、すでに多くの業界で起こっています。
先程、Zoomの使い方をなかなか覚えようとしない中高年の話をしましたが、こうしたビジネスの潮流やテクノロジーの進化についていっていないという感覚や、自分の専門性や経験が「世間に通用しない」「評価されない」といった「漠然とした不安感、自信のなさ」は、〈変化適応力〉を衰えさせる二つ目の心理として浮かび上がりました。
私たちは興味関心の幅や限界を設定して生きている
さらにもう一つ、筆者が特に重要だと考えているのが〈変化適応力〉の三つ目の促進心理、自分自身の興味関心の範囲を決めつけないという「興味の柔軟性」です。
仕事の場でも、日常生活でも、持っている趣味においても、人がそれぞれ抱いている興味や関心の範囲は様々です。
そうした興味関心は、無限に抱くことはできません。
「万学の祖」と呼ばれたアリストテレスならば目に入るすべての知識を吸収していたのかもしれませんが、アリストテレスではない私たちは、どこかに自分の興味関心の「幅」や「限界」を設定して生きているものです。
この「興味の柔軟性」が意味しているのは、これまでの経験や知識に固執して、「ここまでだ」と決めつけてしまうことなく、自分の興味関心の範囲がこれからも広がっていくということです。
この「興味関心の幅」を固定化してしまえば、当然ですがこれから起こってくる様々な変化についていくことは難しくなります。
手前味噌になりますが、筆者は、いわゆる「サブカルチャー」に子供のころから親しんできたタイプです。映画、音楽、アートなど、今の仕事とは全く結びつかない文化作品を好んで渉猟してきました。のめり込んだきっかけは、映画です。
幼少期は宮崎駿監督の作品やゴジラ映画などの子供にも親しみやすい大衆的映画しか観ていない子供でした。