もう少し解像度を上げ、変化適応力の背景にある心理を見ていきましょう。解析の結果、変化適応力の背景には、三つの促進心理があることもわかっています。
一つ目の促進心理は、自分なりの目指すべき目標を見つけて進んでいく「目標達成の志向性」です。常に自分で目標を作っていく力と、その定めた目標に向かって集中して行動していくことが含まれます。
同じ仕事をするにも自分なりの目標をセットするかどうかによって、取り組み方は大きく変わってくるものです。
仕事における「目標」の重要性は、学術的にはアメリカの心理学者ロック(E. A. Locke)やカナダのレイサム(G. P. Latham)といった研究者によって提唱された「目標設定理論」が明らかにしてきました。
目標設定理論に関する研究では、曖昧な目標を立てるよりも、明確で具体的な目標を立てたほうが人の動機づけは強くなることなどが明らかになっています。目標を持つことの習慣づけが、変化への効力感にもプラスに作用しているということです。
日本の社会人は圧倒的に学習活動が少ない
逆に、変化適応力とマイナスの関係にあった心理が、「現状維持志向」です。これは右記の「目標達成志向」の裏返しとして見ることができるでしょう。
自分が思っている目標や負っている責任を果たせないのではないか、と「失敗」のほうに目がいってしまい、現状維持で「失敗を避ける」ということがいつのまにか目標にすり替わってしまっている、そうした状況です。
二つ目の促進心理は、「新しいことへの挑戦や学びへの意欲」です。職業人生において、ますます「学び」の大切さは増しています。そのこと自体に意義を唱える人はおそらく少ないでしょう。
環境変化と技術発展の速度が速くなれば、新しいことを学び続けることの必要性は高まり続けていきます。しかし、前ページの図に示したとおり、中高年になるにつれ、全く学ばない人も増え、平均の学習時間も目減りしていきます。
さらに、国際的な水準から見ても、日本の社会人は圧倒的に学習活動が少ないことが知られています。例えば、アジアの中で比べてみましょう。
図表9は、パーソル総合研究所が実施した調査の結果です。これを見ると日本はアジア・APACの中でもとりわけ学びを行っていないことがわかります。
読書、研修、語学学習などあらゆる学習行動がAPAC諸国の平均よりも低く、学習行動を「特に何も行っていない」人の割合が5割近くに上っています。
中高年の「変わらなさ」の背景には、先進各国の中で最低クラスの学習習慣のなさがあるということです。