生きていてくれるだけでありがたい
妻は一時期胃ろうにしていたが、2019年8月にはミキサー食を食べられるようになり、最近は歯ぐきでつぶせるくらいのものが食べられるまでに回復。
「離婚まで考えましたが、そんなことを気にしていられないほど、とにかく必死でやってきました。朝は息子の弁当作り、昼間は仕事、夜は子どもたちの空手や習い事の送迎や食事の支度。学校や塾の面談も1人で対応していました。2018年末には妻の借金を完済しましたが、妻の医療費も増え、経済的にも楽ではありませんでした。妻が立てなくなってからは、妻をダンボールの上に乗せて、板の間を滑らせて運んでいました。ふと我に返ると、自分は何をやっているんだろうと思ったこともありました」
妻は2019年6月、50歳のときに身体障害者として認定された。庄司さんは今年3月、55歳で定年退職し、長男は大学2年、長女は高校3年生になった。
「介護のことは家族全員で共有するようにしていますが、中でも娘は良い相談相手になってくれています。私は妻の介護を始めて、最初は大変だとは思いましたが、作業としては慣れました。妻の場合、もう家族のこともよくわからなくなっているので、感謝されることはありません。でも、毎回食事のときに『おいしい?』と聞くと、うなずいてくれるだけでうれしく思います」
2021年12月に大学病院を再診した妻は、髄液からGFAP(グリア細胞繊維性酸性タンパク質)と呼ばれる物質の抗体を調べると、「自己免疫性GFAPアストロサイトパチー」(※)という病気であることがわかった。ステロイドによる治療が中心で特別な治療があるわけではなかったが、庄司さんは「病名が確定できただけでも進歩」と思った。
※2016年、米国の医療チームが、抗GFAP抗体が陽性となる新たな中枢神経系炎症疾患を、「自己免疫性GFAPアストロサイトパチー」と提唱。
現在、庄司さんが妻を自宅介護し始めて約2年半になるが、ほぼすべてを庄司さん1人で担っている。家事も、70代後半の母親だけにやらせることなく、庄司さんと分担している。和解した義母は、「娘のために苦労をかけて申し訳ない」と言ってくれている。
「私自身は、妻がこの病気になってからよりも、妻の借金がひどいときのほうが、精神的に追い詰められていました。借金をやめるやめないは妻次第ですが、介護は自分が頑張れば済むことだからかなと思います」
主治医によれば、この先妻は残念ながら、「少しずつ悪くなっていく」とのこと。だが庄司さんは、「生きていてくれるだけでありがたい」と話す。
とはいえ、今は庄司さんが健康だから良いが、庄司さんや同居している両親に万が一のことがあった場合に備えておかないと、子どもたちにしわ寄せが行く。
介護は、後手後手になると疲労感が増す。介護者が感じる幸せややりがいと、つらさや苦しさのバランスが取れている間は良いが、崩れたときに向けて、いかに備えておくかが重要だ。