全国の郵便局長たちが、選挙で自分たちの利益代表の得票につなげようと、自社の顧客情報や経費を流用していた疑惑が、朝日新聞と西日本新聞の追及で明るみに出た。具体的な手口を朝日新聞の藤田知也記者が2回にわたって解説する。前編は8億円超にも上るカレンダー経費の流用疑惑について――。(前編/全2回)
夏の参院選の「1票」につなげようとしていた
兵庫県のある小さな郵便局で、仕事に使うレターパックを大量に買った30代の女性が、窓口の女性社員から声をかけられた。
「お礼にカレンダーをお届けしてもいいでしょうか」
女性客が「それならぜひ」と軽い気持ちで応じると、窓口の社員が「こちらに住所と名前を」と、無地の白いメモ帳を差し出してきた。2020年秋のこと。女性客は自分の住所と名前を書いて伝えていた。
てっきりカレンダーが郵送されるのかと思っていたら、違った。年末になり、面識のない郵便局長が自宅をアポなしで訪ねてきた。
「郵便局をご利用いただき、ありがとうございます」
そう言って、1冊のカレンダー「郵便局長の見つけた日本の風景」を手渡してきた局長は、二つ、三つと言葉を交わして帰っていった。ずいぶん丁寧な顧客サービスだなと受け止めたが、局長の「本当の狙い」は別のところにあった。2022年夏の参院選で「1票」につなげようとしていたのだ。