失敗を恐れない組織風土改革に取り組んでいる

この萎縮を払拭ふっしょくするための取り組みが組織風土改革である。

私は経営心理士、公認会計士として、心理と数字の両面から企業の経営改善のお手伝いをしているが、経営改善のベースとなるのが組織風土作りである。組織風土はメンバーの発想や行動に大きく影響する。

例えば、「失敗は許されない」という組織風土の下ではメンバーは失敗を恐れ、積極的にチャレンジしようとしない。その結果、発想や行動に広がりが出ない。一方で、「失敗してもいいからチャレンジしろ」という組織風土の下では、メンバーは新たな発想や行動を取り入れ、そこから新たな可能性が生まれる。

2019年~21年まで3年連続で5位と低迷している日本ハムは、手堅く無難なマネジメントではこの状況を抜け出せない、新たな可能性を模索する必要があると判断し、選手たちの失敗を責めず、チャレンジを奨励し、萎縮させない組織風土作りを行おうとしている。

球団側はその点を意識して、ビッグボスを監督に据えたのではないだろうか。

また、今期のチームは若手主体で構成されている点も大きな特徴。日本ハムは12球団で平均年齢が一番若い。若手は経験が浅いが故にベテラン選手に比べて萎縮しやすい。加えて3年連続5位という戦績。負けが込んでいる相手に対しては苦手意識を持つ。その苦手意識が萎縮をもたらす。

そのため、選手を萎縮させない組織風土作りは、今のチームにとって重要なテーマだといえる。

「優勝なんか目指さない」という言葉の真意

そんなチーム状況におけるビッグボスの狙いは、「エンハンシング効果」をもたらすことにあると感じている。

モチベーションが上がる要因には、外発的動機付けと内発的動機付けの2つがある。外発的動機付けとは、報酬、承認、叱咤しった、賞罰などの外的要因によって動機づけられている状態をいう。例えば、褒められたいから頑張る、叱られたくないから頑張るといった、外部や他者からの影響を受けてモチベーションが上がる状態である。

一方、内発的動機付けとは、内面に沸き起こった興味・関心や意欲に動機づけられている状態をいう。例えば、野球そのものが楽しいから熱心に取り組みたくなるといった状態である。

長期的なモチベーションの維持のためには、内発的動機付けによる取り組みが望ましい。ただし、内発的動機付けによって取り組めていないメンバーに対して、上司が外発的動機付けを行うことでモチベーションを上げ、高いモチベーションで取り組んでいるうちに、それ自体が楽しくなり、内発的動機付けによって取り組むようになることもある。

グローブでハイタッチする野球チーム
写真=iStock.com/JohnnyGreig
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この変化を「エンハンシング効果」という。

「頑張らせるのではなく、頑張りたくなる状態」を作る。

そのために野球を楽しめる環境を作ろうというのがビッグボスの方針。「優勝なんか目指さない。高い目標を持ちすぎると、選手はうまくいかない」と語っているが、これも優勝という高い目標を持ちすぎて萎縮するくらいなら、野球を楽しんだ方が高い成果を出せるという考えの表れといえる。

ベンチでも「声を出せ」と檄を飛ばして声を出させるのではなく、選手が声を出したくなる雰囲気を作る。その取り組みが功を奏し、ベンチでは選手同士がよく話しているという。

3ボールから打ちにいった打者には、凡退してもその積極性を褒める。こういった言動からもその方針が見て取れる。