自ら野球を楽しむ姿勢を見せる

また、人の感情は伝染する。これを「情動伝染」という。

特にリーダーの感情はメンバーに伝染しやすい。リーダーの機嫌が悪ければ張り詰めた空気が流れ、メンバーは萎縮する。リーダーの機嫌が良ければメンバーは伸び伸びと活動できる。そのため、監督の感情は選手に伝染しやすく、組織風土にも大きく影響する。

ビッグボスは今年2月27日のテレビ番組「S-PARK」でプロ野球解説者の谷繁元信氏と対談し、「選手を萎縮させない雰囲気を作るのが僕の監督としての役目。だから自分はあえて馬鹿なことをしている」と語っている。

自ら野球を楽しもうとする姿を見せることで、「楽しい」という感情がビッグボスから選手に伝染する。監督によるそういった外発的動機付けによって、選手の萎縮が払拭され、野球がより楽しめるようになると、内発的動機付けから野球に取り組めるようになる。それが選手のパフォーマンス向上に繋がる。

本拠地開幕戦のセレモニーに巨大ドローンで登場するなどビッグボスの一連の奇抜な行動の裏には、そんな意図がうかがえる。勝利という結果が出ていないため、現時点ではその行動の説得力は乏しいが、萎縮を払拭するための姿勢は一貫している。

企業マネジメントでも重視されるエンハンシング効果

「頑張らせるのではなく、頑張りたくなる状態」を作るというマネジメントスタイルは、近年、企業においても重視されている。その原因の一つが、若手社員の離職である。

「今の若手は叱るとすぐ辞める。それで今まで何人も辞めた。うちは人手不足だから、これ以上辞められると現場が回らなくなる。だから若手は腫れ物に触るように扱っています」

ある経営者が相談に来られた際、そう話した。こういった経営相談は本当に多い。中には若手を叱ることを禁じている会社もある。

このように、最近は若手に対して叱るという外発的動機付けが難しくなっている。そのため、褒めるという外発的動機付けによって内発的動機付けに導く、エンハンシング効果をもたらすマネジメントが重視されている。

そこで求められるのが、「部下を頑張らせる上司」ではなく、「部下が頑張りたくなるようにする上司」である。部下を萎縮させず、伸び伸びと仕事をしてもらい、積極的に発言させ、優れた発言は積極的に褒めて採用することで、内発的動機付けに導くエンハンシング効果を発揮する。

上司に仕事の相談をする女性
写真=iStock.com/kokouu
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もちろん、こういった関わり方によってわががまま放題する可能性がある部下には、別の対処をすることも必要だ。ただ、今の若手は大人しく受け身な傾向にあるため、一方的なトップダウンの指示ばかりだと萎縮してモチベーションが下がりやすく、それが離職に繋がる恐れもある。

そのため、エンハンシング効果に導く関わり方は今後も重視されるだろう。その上で、ビッグボスの取り組みには参考にできる点がある。