経済対策としては有効だからこそタイミングが重要

一方の旅行業界は、猛烈なインパクトがあった「Go Toトラベル」が忘れられない。政府も業界の要望を受けて、2021年度以降も数兆円にのぼる予算措置を続けている。残念ながら再開ができないので執行されず予算を余らせる結果になっている。

Go To トラベルという政策自体は、予算執行額の何倍もの経済効果が期待できる経済対策として有効なものだろう。政府が支出した分だけが業者に渡っておしまいではなく、消費者がさらにお金を使ってくれるわけだ。

だからこそ、その政策を打つタイミングが重要なのだ。政府がGo Toトラベルを再開できないのは、新型コロナが終息したと言える段階ではないことを如実に示している。

ところがである。Go To トラベルのミニ版とも言える「県民割」が全国に広がっている。実施していないのは前述の大都市だけだ。首長の強い意思で他県には追随していないが、住民の不満は高まる一方だ。そのうち、なし崩し的にすべての都道府県が実施するようになるのかもしれない。しかし、新型コロナが完全に終息していない中で、旅行を奨励することは、新型コロナの感染再拡大を自ら引き起こすことにつながりかねない。少なくとも、政府が2021年に強調し続けた「人流増加」が感染拡大の原因というのが事実とすれば、拙速な人流増加策のツケは必ず回ってくる。

日本の温泉
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エビデンスがないから、人々は出かけるようになった

そんな中で、多くの国民の行動は大きく変わっている。米国などのように人混みの中でも皆がマスクを外すということはないが、旅行先もレストランも客がだいぶ戻っている。政治家や専門家が危機感をあらわにしても、オミクロン株は重症化率、死亡率とも低いので、まあ大丈夫だろうと見切っている人が増えたように見える。

これまで2年にわたって政府は次々と新型コロナ対策を打ち出したが、結局、国民を納得させる「エビデンス(証拠)」を示せていない。2021年の春から夏にかけてデルタ株が広がり、医療がひっ迫した時は、国民の間に危機感が広がり、ワクチン接種に大行列ができた。さすがに人流も一気に減った。外食を取りやめた人も多かった。だが、2021年秋に一気にデルタ株の感染者が減っていった理由が何だったのか国民を納得させるエビデンスが示されていない。

最近では、感染拡大と人流の増減には因果関係がないという研究も出ている。また、感染対策が進んだためか、飲食店でクラスターが発生するケースは激減している。飲食店で酒を出さないことや時間制限することが助成金支給の条件にされたが、それがどれだけの意味があったのか、明確なエビデンスは結局、示されていない。

だからこそ、人々は旅行に出かけるようになっているのだ。日頃一緒にいる家族どうしならば、たとえ県境を越えて旅行してもリスクは高まらないと感じている。