何のための「旅行代金肩代わり」なのか

「新型コロナ対策」と言えば、どんな政策も通ってしまう、そんなムードが国や地方自治体を覆っている。財源がふんだんにあるわけではないのに、その政策で何を実行しようとしているのか、政策目的が曖昧なまま進んでいる。

2018年7月の浅草・浅草寺
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その典型が「県民割」だ。新型コロナウイルスの蔓延拡大が終息するどころか、第7波が懸念される中で、旅行代金の一部を助成する「県民割」や「ブロック割」が実施されている。高水準の感染が続いている東京都や大阪府、愛知県などは、さすがに「県民割(都民割、府民割)」の実施を見送っているが、都民や大阪府民などの「不公平感」は強く、国の「Go To トラベル」の再開に合わせて、実施する方針などを示している。

そもそも、個人の旅行代金のかなりの部分を国や自治体が肩代わりするという「政策」は何のために実施しているのだろう。ホテルや旅館などの宿泊業者や旅行業者を救済することなのか、あるいは景気対策なのか。

両方同じではないか、と思われる読者もいるかもしれない。だが、業者救済と景気対策は明らかに違う。業者救済の政策は、新型コロナの「終息」とは関係なく、むしろ蔓延が深刻で業者が打撃を受けている時にこそ必要だ。一方、新型コロナで打撃を受けた経済を回復させるための政策なら、その手を打つタイミングが重要になる。つまり、新型コロナが終息したタイミングで、一気に景気を回復させる「起爆剤」にする必要があるからだ。

Go To トラベルは実施する「時」を誤った

もともと、Go Toトラベルは後者が狙いのはずだった。新型コロナの蔓延で緊急事態宣言が出された2020年。4~6月期の経済の未曾有の落ち込みから回復させる「起爆剤」として考えられ、7月22日から実施に移された。4万円の宿に実質2万円で泊まれるとあって、旅行者が急増。観光地の人出は一気に増加したため、それが新型コロナの深刻な感染拡大につながったとされ、中止に追い込まれた。それでも1兆円近い予算を使った。

苦境に喘いでいた宿泊事業者や旅行業者が大きく息をついたのは言うまでもない。その後も業界は「Go To再開」を要望し続けている。結果として、業者救済につながったのは良いとして、新型コロナ後の景気回復の切り札だったと考えると、政策として打ち出すタイミングを誤った、と言っていい。「新型コロナ対策」とひとくくりにするが、新型コロナの蔓延を抑えるのとは真逆の政策を打ってしまったわけである。その後、政府は、新型コロナ対策の「柱」として「人流」抑制にこだわり続けることになる。