窓には鉄格子がはまり、横の壁には緊急時ボタン

ここでお話しする内容は、日本海側のある少年院の高等学校卒業程度認定試験(高認試験)対策講座で出会った少年のことです。上着の袖口から見える両手にはいっぱいに青色の絵が描かれ、ガタイ(体格)がよく、頭は坊主に近い、絶対に外で会ったら避けてしまうようなオーラを出していました。

彼は2年の長期入院で、断続的にですが期間として1年半ほどの付き合いをしたと記憶しています。最初の出会いがあまりに衝撃的すぎて、どうなることかと思っていましたが、1年を過ぎる頃には表情が落ち着いてきていました。また、高認試験に対しても真剣に向き合うようになっていたので、彼にも個別指導を教官にお願いすることにしました。

個別指導は講座ごと、参加者ひとり1回が原則で、数学者の瀬山士郎先生と相談の上、さらにサポートが必要と考える少年には時間が許せば2回まで行います。時間帯は我々の帰りの新幹線の時刻から逆算して、午後1時から2時半まで。

個別指導を行う場所は、単独室が10部屋以上並んでいる区画の中の面接用の2部屋。瀬山先生と隣同士で1回に各ひとりの少年を教えます。部屋は細長い5畳ほどでスチール机にパイプ椅子が2脚、ホワイトボードがひとつあるだけの殺風景な空間。ただ、部屋奥の窓には鉄格子がはまり、横の壁には赤い緊急時ボタンがあり、どの場所にいてもすぐ手の届く絶妙の位置に設置してあるのがとても印象的です。

格子付きの窓
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです

最初の個別指導は3分の1が雑談だった

個別指導時の風景は、最初、教官が立ち会い、少年と私が机を挟んで向かい合い少年から「お願いします」と挨拶をされると、教官が部屋を出て外からドアが施錠される。そこからはふたりだけの空間になります。ただし、ドアにはガラス窓がついていて外から中が丸見えの状況。でも、やはり施錠された部屋にいるのは、とても居心地が悪いものです。

さて、彼との最初の個別指導では、私が彼と話がしたかったとの強い想いから、指導時間の3分の1が雑談になったと記憶しています。話の内容の細かいことまでは忘れてしまいましたが、覚えている部分をお話しします。

最初は他愛のない会話から始まり、彼から「先生は埼玉の○○から来ているんですよね。それだと自分は○○駅の周辺で、お金はたくさんあったからいつも何人も女の子をはべらして遊んでいたんですよ。だから、絶対に会っているはずだな」と。私は「あなたの遊び場所には行かないからどうかな? でも、駅構内ではすれ違っていてもおかしくないね」。

さらに、「先生、おはよう逮捕知ってる?」と聞かれ、「知らないよ」と私。すると「警察ってさ、俺たちがまだ寝ている早朝に突然来るんだよ。捕まったとき、アパートに住んでいて寝ぼけてドアを開けると警察でヤバイと思い、今から着替えるから少し時間をくださいと言って、部屋に戻って裏の窓から逃げようとしたら、そこにもいるんだよ、警察が。その日は午後から彼女と遊ぶ約束していたから参ったよ」。