「寝る」という超シンプルなことの大切さ
例えば、発達障害の傾向のある人は一般的に体の感覚がとても敏感なことが多く、その強過ぎる感覚入力のバランスを取る独自の手段をいくつも持っています。
ある人は、「過集中に伴う緊張を解消するにはまずは睡眠。あとはスクワットで筋肉をたくさん使うのがいい」と話していました。
産業医面談においても、「睡眠さえきちんと取れていれば、ここまで具合が悪くなることはなかったかもしれないな」と感じる場面に遭遇することがよくあります。「寝る」という超シンプルなことの大切さを、みなさんに再認識してほしいと常々感じています。
そこで、産業医面談に訪れた人にはまず、最近の睡眠の状況や様子を聞くことにしています。
この質問へのいちばんよくある回答は、「普通に眠れていますよ」というもの。
そこで、前日の夜の眠りに入った時間や当日の起床時刻、寝ているあいだに目が覚めた回数や、ときには直近の数日間の睡眠時間を書き出してもらいます。
すると多くの人が、「昨日はちょっと遅くて深夜3時くらいに寝て、今朝は6時半に起きました」などと、十分に眠れていないことが見えてきます。
その結果を前に、「あれ? 思ったほど眠れていないですね?」と指摘すると、ようやく「うーん、確かにそうかもしれない」という答えに変わるのです。それだけ多くのみなさんが、無自覚のままで睡眠不足に陥っているということなのです。
産業医面談を通じ、数カ月にわたって一緒に睡眠を整えていくと、体調を崩していた人がどんどん快方に向かうことは珍しくありません。
もしその人が、どことなく体調が悪いことを放っておいてそのまま仕事を続けていたら、いずれ体を壊して仕事も休まざるを得なくなっていたかもしれません。
正しい知識を身につければ睡眠満足度は上がる
数カ月にわたって産業医面談に通わなくとも、睡眠が改善したというデータもあります。わたしがメディカルアドバイザーを務め、企業向け睡眠改善プログラムを提供する株式会社ニューロスペースでは、睡眠改善の集合研修を実施しています。
その対象企業で蓄積したデータから、研修前と研修後1~3カ月の時点で睡眠満足度や睡眠の悩みに変化が表れました。
詳しい結果は図表1に掲載しますが、集合研修で睡眠の正しい知識を身につけ、自分自身の習慣を振り返ることで、1~3カ月後には睡眠満足度や睡眠不足、寝つきにくさや目覚めやすさなどに違いが生まれることが見えてきたのです。
いま、産業医としてよく相談される内容のうち、睡眠不足に原因があるとピンとくるものには、次のようなケースが挙げられます。
□気づいたら、やらなくていいような同じ作業を1時間くらいしていた
□普段はしないようなミスを連発してしまう
□電車で寝過ごすことは前からあったが、乗り間違いも増えた
□ちょっとしたことでキレたり、涙が出そうになる
□会議中に上の空になってしまって、会議の内容が頭に入ってこない
これらは、発熱したり、体のどこかが痛んだりするようなわかりやすい自覚症状を伴うものではありません。そのため、その原因が睡眠不足にあるとはなかなか認識できないのです。