日本人の睡眠時間は世界最短

日本は「隠れ不眠」が多い国だと書きましたが、加えて、現代に生きる日本人は、そもそも睡眠時間が短いというデータも存在します。

ランニングやフィットネス用のウェアラブル・デバイスで世界的に有名なポラールの日本法人が、2017年に主要28カ国・地域で6カ月にわたり収集した約600万の睡眠データを解析したところ、日本人の平均睡眠時間は男女ともに世界最短でした。

ちなみに、日本人男性の平均睡眠時間は6時間30分で、日本人女性は6時間40分です。

参考までに、男女ともに最長だったのはフィンランドで、男性が7時間24分で、女性が7時間45分でした。日本人とは実に、1時間近くもの差があります。

日本人男性の6時間30分、日本人女性の6時間40分という睡眠時間を見て、「思ったより眠れているじゃないか」と思いましたか? 多忙なビジネスパーソンや子育て中のママであれば、「毎日6時間も眠れない」という人もたくさんいるはずです。

この数字は、あくまでもポラールの製品を使っているユーザーの平均値です。しかも、ビジネスパーソンよりも長時間の睡眠時間が取れる高齢者や学生のデータも含まれています。

その点を考慮すると、働き盛りの世代に限れば、日本人の平均睡眠時間はさらに下がると考えられます。

約30%の人に不眠の症状があるうえに、日本人の睡眠時間は世界最短レベル。そう考えれば、やはり日本人の不眠・睡眠不足はもはや「国民病」であるといえると思います。

健康でいるために、そして仕事のパフォーマンスを上げるために、良質で十分な睡眠時間を確保することが、これからの日本人には求められます。

睡眠時間6時間未満は7時間以上より4倍風邪をひく

では、そもそもなぜきちんと眠れないことが問題なのでしょうか。

睡眠のもっとも大切な役割は、「寝ているあいだに体のお手入れ(メンテナンス)をしてくれる」点にあります。

例えば、熟睡することで副交感神経の働きが優位となって、血圧が低下し、高血圧を予防することができます。こうした「血圧の調整」機能がそのひとつです。

また、もっと重要な役割として、「ホルモンバランスの調整」があります。「食欲を司る」働きをするレプチン、グレリンというホルモンを例にしてみましょう。

睡眠時間が短い人ほど、食欲を増進させるグレリンの血中濃度が高くなり、逆に食欲を抑えるレプチンの濃度が低くなることがわかっています。

ここからなんとなく想像できるかもしれませんが、睡眠不足の人は、食欲が異常に増して太りやすくなってしまうのです。

産業医面談にくる人は、年々体重が増えていくことを気にしていることが多いのですが、その原因が「意志の弱さ」だと思い込んでいます。

でも、本当は睡眠不足が原因で、睡眠さえ足りていれば、それだけで食欲が抑えられて徐々にスマートになっていくかもしれない、という人もたくさんいるのです。

また、「免疫機能の調整」も睡眠の大切な役割のひとつです。

「免疫機能」とは、「病原菌などから体を守り、健康を維持するための防護システム」のことで、たった数日、睡眠不足になっただけでも体の防御機構に影響が出ることがわかっています。

例えば、2015年に発表されたアメリカの研究では、睡眠時間が6時間未満だった人は7時間以上眠れている人に比べて、ライノウイルスという風邪のウイルスに4倍以上もかかりやすいことがわかったのです。

それこそコロナ禍において、睡眠が体の防御機構に及ぼす影響は無視できないものではないでしょうか?