【田中】大河ドラマ『青天を衝け』の終盤は、渋沢栄一の若いときのエピソードに比べると、今の時代の私たちに対するメッセージ性が非常に強かったと思います。驚いたのは、実業の第一線を退いてからも民間外交でアメリカに行くなど、戦争を起こしてはいけないという熱意に満ち溢れていたことです。

70歳を超えてからも変わらず、熱さを持ち続けていたことはすごいですよね。多くの会社を立ち上げたときよりも、終盤の渋沢栄一のメッセージの方が私はすごく重みを感じました。

【渋沢】晩年までしっかりと描いてくれたことはありがたかったですね。若い頃に銀行をつくり、岩崎弥太郎と対立したあたりで終わりかと思っていましたが、しっかり最後まで描いてくれたことはとてもよかったです。

30代は「やりたいことにアクセルを踏む時期」

【田中】終盤は中盤と比べると派手さはないけれども、重みがありました。最後にお伺いしたいのは、渋沢栄一が大蔵省から民間の社会起業家に転じた33歳という年齢とタイミングについてです。渋沢さんはこの、33歳というタイミングも非常に重要であると分析されていますよね?

【渋沢】今の33歳はミレニアル世代にあたります。日本では人口がミレニアルからZ世代までずっとしぼんでいて、これからの日本は駄目だと言われるのが一般的です。しかし、33歳とは社会に出て10年ほどの経験を積み、自分が何をやりたいのか、何ができて、何ができないのかが見えてくる年齢です。そこで自分のやりたいことにアクセルを踏むことが大事です。

渋沢栄一はもともと商人で、たまたま政府に入りましたが、政府の仕事をやりたかったわけではありません。それに33歳くらいの頃に気づいて、やはり自分は民間の人間だと銀行を立ち上げ、さまざまな功績を残しました。令和の主役は昭和のおじさんではありません。これからは新しい時代の新しい価値観、新しい成功体験を作らなければいけません。それは過去の成功体験を持っていると、なかなかできないのです。

戦後のイケイケドンドンの時代を経験した私たちからすると、社会はあるのが当たり前で、そこでいかに稼ぐかが重要でした。環境に関しても、公害問題があったとしても、成長の代償だと見えないふりをしていました。今の時代はテクノロジーによってさまざまな環境的、社会的課題が見えてしまう。以前は見えなかったことが見える時代です。

世界がこのままでは持続可能性は乏しい。一方で、30代の起業家になぜ起業したのかを聞くと「社会を変えたいから」という言葉が普通に出てきます。それでいいと思います。けれども40代以上になると「起業して儲けたいから」と語る人が出てきます。

田中道昭氏

新しい日本を作る中での世代ごとの役割

【田中】今の20代、30代はデフォルトの価値観としてサステナビリティを持っていますよね。

【渋沢】何故かというとサステナブルでないことが見えてしまうからです。

【田中】サステナブルではないところで育ってきたからこそ、そうなってはいけないという価値観を持っていますよね。

【渋沢】どの世代でも「仕方ない」と諦めモードに入る人もいれば、「これはまずい」と動く層もいます。その中で、動かなければいけないと思っている若い世代のインパクトは大きく、テクノロジーなどを用いて、自分の考えをすぐに広めることができます。少人数でも、世の中を変えられるツールを持っている。

令和時代の新しい日本を作るのは明らかにミレニアル世代・Z世代だと思います。私たちのような世代の役割は、職場においても環境においても、次の世代のスイッチが入るような場と環境を提供していくことです。

【田中】私たちの世代の役割を『論語と算盤』的に言うと、変わるものと変わらないものがある中で、何が変わらないのか、何が変わってはいけないのかを伝えていくことだと思います。

【渋沢】変わってはいけないものは、先ほどにもあった「信頼」のようなものだと思います。変わっていいのは会社のあり方。年功序列や終身雇用は変わってもかまわないでしょう。