2021年の大河ドラマ『青天を衝け』の主人公・渋沢栄一とはどんな人物だったのか。渋沢の玄孫で実業家の渋沢健さんは「渋沢栄一には『高崎城乗っ取り事件』という大きな挫折があった。だからこそ、『日本資本主義の父』と呼ばれるような活躍ができたのだろう」という。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が聞いた――。(前編/全2回)
※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事「令和の現代に、渋沢栄一の『論語と算盤』が必要とされる理由。」(2月10日公開)を再編集したものです。
『青天を衝け』で描かれた高崎城乗っ取り計画の意義
【田中】渋沢健さんと言えば昨年2021年の大河ドラマ『青天を衝け』の主人公である渋沢栄一の玄孫でいらっしゃいます。私も今、青天ロスに陥っているところですが、1年間『青天を衝け』を通じて渋沢栄一をご覧になって、「ここは欠かせない」というシーンは、どの部分だったのでしょうか。
【渋沢】絶対必要だと思っていたシーンは、渋沢栄一のスイッチが入った瞬間です。それが渋沢の人生を大きく展開させたと思っています。
【田中】「お代官様」とのシーンですね。
【渋沢】そうです、あのシーンは絶対に必要だと思っていましたし、見事な演技でした。
【田中】あの出来事は渋沢栄一にとって、まさにスイッチが入った瞬間だったということですね。
【渋沢】はい。なぜ生まれた立場の違いで、上から目線で見られるのか。努力した人たちが報われる世の中になるべきなのに、たまたまその立場に生まれたというだけで偉そうに振る舞うのは許せないと。実際には代官も中間管理職ですから、上から言われてやっていた面はあるかと思いますが、あの場面は非常に大事なシーンだと思いました。
【田中】渋沢さんは渋沢栄一の本をたくさん出されていますが、挫折についても強調されていますよね。まさに挫折があったから、渋沢栄一は最後に大きなことを成し遂げられたと思います。渋沢健さんが考える渋沢栄一の重要な挫折とは、何でしょうか。
【渋沢】やはり、尊皇攘夷思想に影響されて高崎城を乗っ取るという無謀な計画を立てたことです。挫折とはネガティブな表現かもしれませんが、その後の人生の新たな道を展開させる重要な転機でもあると思います。