国際世論においても、ロシア非難が大きな役割を占め、3月1日に開催された国連総会では、即時撤退決議が、賛成141、反対5、棄権35で採択となった。岸田内閣は、日本はやらないと決めている「対ウクライナ武器供与」は別として、国際世論の先頭に立って、ロシア非難と制裁の強化に必死である。

2014年3月30日オーストリア・ウィーンにて、ロシアのウクライナからのクリミア併合に抗議するため、ウィーンの中央広場に集まるデモ参加者。
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そうはいっても、アメリカの場合、ホワイトハウス主導の「打倒プーチン」論が世論を風靡ふうびする中にあっても、①NATOの東方拡大こそ最大の間違いだったとするシカゴ大学のミアシャイマー教授(『ウクライナ危機は西側の誤り』(Foreign Affairs, 2014 September/October)『2015年シカゴ大学公開講義』『2022年New Yorker Interview』)、②ニクソン大統領のソ連問題指南役だったドミートリー・サイムス、③ロシア関連情報を英語で丹念に紹介配布しているジョンソン・リストの『私の意見』など、プーチンの内的論理を追求しながら政策を考えようとする意見が発信されている。

日本の場合、今回ここまでの武力行使は許せないと明確に指摘しつつも、ロシアの内的論理を丁寧に紹介している代表が佐藤優氏だと思う。

米国よりも付き合いの長い日本ができること

ロシアの内的論理を追求する人たちに学びながら、いま日本の国益にたって日本外交を考えるときに、述べておきたいことがある。

日本としてウクライナ和平のためにどのような行動をとったのか、もしくは今でもなしうることをやっているのかという問題である。日本にはアメリカよりもはるかに長いロシア人との接触があり、日ロ戦争の大勝利と太平洋戦争最後の火事場泥棒的攻撃の屈辱とその後のながい領土交渉の歴史をもっている。そこで蓄積してきたロシアの内的ロジックについての知見が、日本にはあるはずである。

昨年12月以降緊張が蓄積していく中で明確になってきた、「ドンバスに平和と安定を」と「ウクライナの中立化」の2つの課題がプーチンにとって必須である――そのことをアメリカとウクライナにきちっと日本の然るべき責任者は言ったのだろうか。マスコミ報道からは、残念ながらそれはうかがえない(<「NATOに行くのは許さない」プーチン政権が異常なまでにウクライナに執着する悲しい理由(2021年12月16日)>および拙文『Responsible Statecraft(2022年1月24日)』参照)。

これまでのことはともあれ、今拡大しているウクライナ戦争は、あまりに悲惨で危険である。「スラブ三兄弟」の「弟殺し」を続けているプーチンにも早期停戦のインセンティブは必ずあると筆者は思う。戦争を終わらせる外交交渉ほど難しいものはない。戦争を終わらせるには、双方の最低限の要件を満たさねばならない。