クリアするほど次がきつくなる
管理職になり、部下からノルマ未達の弁明を聞かされて、アドバイスをするときも「歯医者が歯の治療をしなかったら歯医者ではないよね。営業はノルマをクリアして初めて営業と言えるのだよ」という話をしている。
現代の若者に響いているかはわからない。だが、僕も、年間を通じてノルマを達成し続けているが、より短期の単月や四半期ベースでのノルマが未達であることは何回かあった(年間で取り返したが)ので、営業指南本を執筆するようなスーパー営業マンとは言えない。努力と工夫を重ねて営業畑を生き抜いてきた普通の男である。
だからこそ誰にでも容易に真似ができるともいえる。
若い頃の僕はノルマ絶対主義の営業ガチ勢であった。ノルマをクリアすることにすべてをかけていた。会社から課せられたノルマとそこから落としたタスクをクリアすることに日々喜びを覚えるような働き方をしていた。
その一方で、経験を重ね、ノルマを達成しながら新卒から中堅社員になっていくとともに、「このままでは苦しくなる」とも感じていた。当たり前である。課せられるノルマは年々上がる一方だった。ノルマをクリアすることで評価は上がり、翌年は評価に見合う大きなノルマをさらに課せられるのだから。
90年代末の営業はひたすら「数と量」だった
去年の自分の全力が、次の年に「これくらいできるだろ」と言わんばかりに当たり前とされるのがキツかった。「このままではいつかパンクする……」と不安を感じていた頃、仕事の在り方を考える事件が起こった。
ほぼ同時期に入った同僚たちが過労で倒れたり(不幸にも仕事と家庭内の問題が重なってしまった)、営業という仕事に見切りをつけて会社を辞めたりしたのだ。
営業という仕事は与えられたノルマをタスクに落とし込んで、クリアしていくことを毎日続けなければならない職種である。ノルマが大きくなれば、日々のタスクも増えて、追われるようになる。前日のタスクをこなせなければ翌日以降のタスクに加えられる。1日のロスを挽回するためには数日かかる。心が折れて1週間漫画喫茶でサボってしまったら挽回するのはかなり難しい。
要するにノルマを達成する営業マンには余裕などない。ギリギリで一日一日をやっている。会社サイドから見ると営業マンはコマである。課したノルマをクリアして売り上げをあげるコマである。壊れたら新しいコマにすればいい。
僕が働きはじめた90年代の末期は、そういう営業=コマという考え方のもとで、営業という仕事は数と量をこなすことに重きが置かれていたように思える。