『地域国家論』が禁句の中国なのに……

たとえば台湾。国家と地域の境界線を彷徨してきた台湾にとって、地域国家論は非常にコンフォタブルであり、「大前は我々にレゾンデートルを与えてくれる」と大歓迎される。

あるときイタリアのリーガ・ノルドという団体から講演依頼があった。何かと思ったら、中世のロンバルディア同盟(神聖ローマ皇帝のイタリア支配に対抗して結成された北イタリアの都市同盟)よろしく、北イタリアの独立運動を展開する北部同盟(イタリア北部の地域政党)からのお招きだった。

スペイン北西部のガリシア地方に呼ばれたこともある。州知事なのに「大統領」を名乗るトップから「このガリシア地方がEUの中でいかにして特徴ある地域国家として生き残るべきかを市民に説いて欲しい」と講演を頼まれて、ガリシア地方をくまなく案内してもらった。

カナダではフランス語地域のケベックからも声がかかった。要するに独立意識の高い地方政府にとって『地域国家論』はバイブルになっているのだ。

これが中国になると事情はまったく異なる。「1つの中国」を標榜して13億の民を束ねることに心血を注ぐ中国政府としては「ボーダレス・ワールド」などもってのほかだし、台湾政府に正当性を与えるような『地域国家論』は禁句に等しい。ボーダレス経済論者、地域国家の提唱者の大前研一など絶対に受け容れられないのだ。しかし中国の改革解放路線(一国二制度)は言ってみれば100の地域国家を作ると言うことだし、実際そうやって日本よりもはるかに地方自治を進めた結果が経済の大成功につながっている。

その中国でもコンサルタントとしては重宝がられていて、大きな都市や省からアドバイザーの要請や講演依頼がある。私に対してレッテルを貼らずに「知恵者の何でも屋」扱いだから、講演の質疑応答もきわめてランダム。何でもありだ。自分の都合でいいとこ取り、聞けることは何でも聞いてしまえという遠慮がない踏み込み方が、いかにも中国人らしい。

(小川 剛=インタビュー・構成 市来朋久=撮影)