一部の科学者は近年、幻覚剤が脳に成長ホルモンの放出を促すことで、脳細胞が回路を「再配線」する可能性があることを示唆する証拠を発見している。さらに幻覚剤は脳の再生を促す可能性もあるという。

例えばエール大学医学大学院の研究者は、レーザー顕微鏡でマウスの脳、特にニューロン先端部の樹状突起棘(隣接するニューロンとの結合を可能にする棘状の突起物)を観察した。慢性的なストレスや鬱は、この樹状突起棘の数を減らし、萎縮させることが分かっている。研究者がストレスで樹状突起棘が萎縮したマウスにシロシビンを投与したところ、樹状突起棘の回復が見られた。

しかも、この「脳の再配線」は1回の投与で長続きするようだ。シロシビンを投与したマウスは、1カ月後にニューロンの結合が10%増加した。結合密度が高まったことで、マウスの行動が改善され、神経伝達物質の活発化などの効果が観察された。

難治性脳疾患の新たな治療法にも

ペトリ皿の中でヒトの脳細胞に幻覚剤を投与した他のグループは、新しい脳細胞の成長(神経発生)を報告した。一説によれば、セロトニン受容体のスイッチを長時間「オン」の状態にする幻覚剤の作用が、ニューロンにホルモンのような信号の放出を促し、神経新生のプロセスを強化するのではないかとされている。

ハーバード大学のローゼンボムによれば、これらの化学反応を正確に把握できれば、さまざまな脳疾患の原因解明だけでなく、多くの難治性脳疾患の新たな治療法の開発が期待できるという。

プレスリーは精神科のソファに横たわっているとき、樹状突起棘のことも自我のことも考えていなかった。7歳の子供に戻り、両親や兄弟2人と日曜説教の間、教会の席に座っていた。「両側に兄弟の気配を感じ、どんなに兄弟や両親を愛しているかを実感した」

やがて教会のシーンは別の光景に変わった。自分や両親、その他の愛する人々の葬式の場面だ(実際は全員が存命)。そして恋人との未来を思い描いたり、純粋な喜びや感謝の念があふれ出るのを感じたり……。

それが現実ではないことは分かっていた。しかし、一連の光景は極めて詳細で、本物のように感じられた。

この体験をジョンズ・ホプキンズ大学の療法士と一緒に振り返った後、何かが変わった。それから数週間から数カ月間で、プレスリーが見た光景は新しい人生の指針となった。