加害者には「いじめ」という言葉は使わない

難しいのが、加害児童・生徒とその保護者への対応です。

実は、加害児童・生徒もその保護者も「何がいじめか」を理解していないケースが多いので、根本的には、いじめとは何かから理解してもらう必要があるのですが、私はなるべく「いじめ」という言葉を使わないようにしています。

どんな親でも、わが子が「いじめの加害者」だとは思いたくありません。「お宅のお子さんがいじめをやっています」と言われても、それを素直に認める保護者はほとんどいません。反発を招くだけです。これは加害児童・生徒も同じことで、「○○さんをいじめたでしょう」と尋ねても、それを素直に認める子どもはほとんどいないのです。

そこで私は、こんな言い方をします。「○○さんは、あなたから容姿のことをいろいろと言われて、すごく嫌だったんだって。あなたが同じことを言われたら、どう思うかな?」。すると、たいていの加害児童・生徒が「それは、嫌だと思う」「それは、やってはいけないことだと思う」と答えます。そこで「やってはいけないことを、あなたはやってしまったんだよね」と、念を押すのです。

ただし、まったく同じ伝え方をしても、「そんな程度のことで傷つくほうが悪い」といった反論を招いてしまう場合もありますから、私は相手の様子を見ながら、表現の仕方を毎回変えています。

第三者的に介入できる専門家の養成が急務

つまり、いじめは千差万別なのです。まったく同じいじめなんて存在しません。そして、これが正解という解決マニュアルも存在しないのです。だから簡単ではなく、第三者的に介入できる専門家の養成が急務だと思っています。

いじめ問題の専門家を名乗る人はたくさんいます。しかし、本当にいじめを解決できている人はどれだけいるのでしょうか。残念ながら、被害者の処罰感情の炎に油を注ぎ、対立をあおって、問題を長引かせている専門家が少なくありません。

弁護士も頼りにはできません。当たり前のことですが、彼らの仕事は「依頼人の利益を守る」ことで、学校・教育委員会の対応の不備を鋭く指摘することになります。その結果、学校・教育委員会が態度を硬化させてしまうことは、容易に想像がつきます。これらの専門家とは違うアプローチが求められているということは、いじめやいじめ自殺が減らない現状が物語っているのではないでしょうか。(続く)

(構成=山田清機)
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