情熱おじさん、北村さんとの出会い
ある日、友人たちとの食事会から帰ってきた妻にこう言われました、「友だちの知り合いで、あなたに少年院で何か喋ってほしいという人がいるんだけど」。
僕は「へえ、そう」と聞き流していました。そういうことが何度か繰り返されるうちに僕の心も動かされ、「じゃあ、直接、話を聞いてみよう」となりました。
会ってみるとその中年の男性は、「日本の犯罪発生率を減らしていきたい」「再犯率が高いのは大人。大人になる前の子どもたちから変えたい」「だから少年院の子どもたちに慰問講演をしてほしい」と熱く語ります。
その人が北村啓一さん。出版社を定年後、罪を犯した人たちの就労など立ち直りを支援するボランティアをしている人でした。
話を聞くうち、北村さんの情熱に押されるように、僕は「わかりました」と引き受けることを承諾していました。「大丈夫、やってみましょう」と。
「『命』の授業」が生まれた瞬間
「どういう内容の講演をしてくれますか?」と問われ、僕は「ゴルゴ塾」のことを説明しました。罪を犯して少年院に入っている子たちと、お笑いの世界で夢と目標を失っている若手芸人、その境遇は似ていて、話す内容はさほど変わらないんじゃないかと思ったからです。
ごく簡潔に言えば、「やる気」「元気」「勇気」ひとつで人生は変わるということ。「具体的に、漢字を使ってこういう解説もします」とも伝えました。
北村さんは「ゴルゴ塾」のことなど全く知りませんでした。ではなぜ僕に声をかけたのかと言えば、これまで会社の社長さんだとか、社会人として立派な方を連れて行き、講演をしてもらったのだけど、どうも堅苦しくて、子どもたちの反応がイマイチだったそうです。
そこで芸能人やお笑い芸人で誰かいい人はいないかと思っていたところ、僕の妻を通して、「そうだ、ゴルゴさんだ」となったそうなのです。「ゴルゴ塾」のことをはじめ、僕の説明を聞いて、北村さんは「ぜひお願いします」と力強く言ってくれました。
講演活動を行うに際し、ジャケットをピシッときた僕は北村さんに連れられ、生まれて初めて霞ヶ関の法務省に挨拶に行きました。法務省には、その後、2018年に矯正支援官に選ばれ、委嘱式に出席するために、その門を再びくぐることになるのですが。