女性に関する話は、よくテーマで取り上げます。漢字を調べていると、おんなへんのつく漢字は257もあるのに、おとこへんというものはありません。人をあらわす、にんべんがあるだけなのです。漢字の世界では圧倒的に女のほうがバラエティ豊かです。

さて、そのお母さんと息子は、手紙を書いてきてくれました。そこにはこうありました。

「○○少年院にいました。あの時にゴルゴさんの話を聞いて、お母さんに『ありがとう』を言わなきゃいけないと思いました。そして、いつかお母さんから『ありがとう』と言ってもらえるよう、今、僕は料理人を目指して働いています」

「ああ、やってきてよかった」と思えた瞬間でした。実際には、こんなふうに少年院を出た子のその後を知ることはまずないけれど、どこかに、同じようにお母さんに「ありがとう」と言ってる子がいるかもしれないと思うと、ちょっと嬉しくなりました。

言葉の力を信じて

少年院の子たちのことを考えながら、あらためて僕自身のことを振り返ってみると、僕は子どもの頃からずっと“言葉”によって元気づけられたり、勇気を与えてもらっていました。本を読んで心に残る言葉があれば、ノートに書き出したりもしていました。

新しいことに取り組む時は、上杉鷹山先生が「為せば成る」と背中を押してくれ、苦しい時は、藤波辰爾選手の「ネバーギブアップ!」の声が聞こえました。

売れない貧乏時代は『成りあがり』の永ちゃん――矢沢永吉さんからげきがとび、僕は「今に見てろ。こんなことで負けねえぞ!」と拳をあげました。

ゴルゴ松本『「命の相談室」 僕が10年間少年院に通って考えたこと』(中公新書ラクレ)
ゴルゴ松本『「命の相談室」 僕が10年間少年院に通って考えたこと』(中公新書ラクレ)

言葉は「言霊(ことだま)」――霊、つまり、たましい(魂)が宿っています。また言葉は「言」の「葉」。葉っぱのように何度も再生します。繰り返し言うことで、そこに魂が宿り、言霊となって、それを実現させるのです。

美味しい料理をつくりだす庖丁はまた、人を殺す道具にもなります。本は読むと楽しく、知識を与えてくれるけれど、投げつければ相手にケガをさせます。言葉も同じ。罵詈ばり雑言、誹謗ひぼう中傷のように人を傷つける凶器になる場合もあります。

要は使い方次第ですが、日本人は言葉を言霊として「正しいこと、いいことを言いましょう。そうすれば正しく進むことができる」としてきました。

僕もそんな言葉の力を信じています。だから「『命』の授業」も、漢字を様々な角度から見つめ、歴史の話もしながら、たくさんのよき言葉を届けたい。

それが今、この時代に生きる僕の役割だと思っています。

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