少年院での初めての講演

2011年11月、晩秋の晴れた日、僕は関東地方の少年院にいました。体育館の中、150人の少年たちが演壇に立つ僕を見つめています。

「あ、テレビに出ている『命!』の人だ」
「このギョロ目のおじさんが、これからどんな話をするのだろう」

興味津々なのが、その真っ直ぐな視線からも伝わってきます。少年院での初めての講演。僕も少し緊張していました。

まだ年若い彼らにとって、接してきた大人といえば家族や地域の人間がほとんどで、その大人たちへの不信感がどこかにある。だから僕は、「こういう大人もいるんだぜ」「テレビの中の有名人じゃなくて、近所のおっさんだと思って話を聞けよ」と最初に言いました。

話したいことはたくさんあるけれど、僕は少年たちへのこんな質問から始めました。

「富士山に登ったことのある人は?」
「はい」「は~い」、何人かが手をあげます。
「そもそも富士山って何メートルあるか、知ってる?」
「6千メートル」
「おいおい、それじゃキリマンジャロだよ」

目立とうとする子もいれば、大人しい子もいます。まず目立つ子を喋らせて、ちょっとした発言にツッコミを入れる。すると笑いが起きる。これが僕のやり方です。

ああだこうだという会話のやりとりの中で、今度は質問に手をあげなかった子を指して、答えさせる。そうやって、みんなを巻き込んで話を進めていくのです。

ホワイトボードに言葉を書くゴルゴ松本さん
写真提供=筆者
講演会での一幕。漢字の意味からメッセージを伝えている。

今の心が変われば、未来も変わる

少年院にいる子の多くは、ネガティブな感情をもっています。「何でこんなところにいなきゃいけないんだ」「どうせもう自分なんか」と。

家庭に問題があったり、愛情に恵まれなかった場合は、「自分だけこんな目にあって……」という気持ちもあるでしょう。そんな彼らに僕は、「何事も、考え方ひとつ、捉え方ひとつ、そして、やる気で変わるんだよ」と言うのです。

過ちを犯して、そこにいる子たち。「過去」は「過ちが去る」と書きます。また、「反省」の「省」は「かえりみる」こと。

過去に心を立ち返らせて、自分はどうしてあそこであんなことをしたのか。原因は何だったのか。心のうちをよく見てみる。すると、やった事実は事実として残っても、過ちは去って、そこから変わることができる。

そして、今の心が変われば、未来も変わる。これまでの自分を変える「変身」は「変心」、心を変えることでもあるのです。

今は少年院にいるけれど、君たちも自分の力で未来を創ることはできるんだ、そのことを僕はしっかり伝えたかったのです。