日本政策金融公庫から1500万円を借りた
黒田が調理している間、ぼくは店内をあらためて見まわしてみた。10坪ほどの広さで、テーブルが6つある。窓側と壁側がカウンターになっており、全部で25人程度は入れるだろうか。タイル張りの壁におしゃれな雰囲気があった。下北沢という土地柄も意識したのだろう。
2017年末ごろから、黒田は本格的に店舗をさがしはじめた。2018年1月には下北沢にターゲットを絞り、この地域に強い不動産屋を使うことにした。物件が出てきたのは、2月になってからだ。
学生の時から黒田はよく下北沢に遊びに来ており、土地勘がないわけでもなかった。チャレンジする姿が似合うイメージがあり、新しいもの好きというカルチャーもいい。管理費を含めて家賃が23万円というのも、ほかの街に比べて安かった。
内装は出費を減らすために、かなりの作業を黒田が自分で進めた。壁塗りやカウンターの表面を磨くのは、簡単だし愛着が湧く。550万円の見積もりが390万円程度で仕上がり、厨房機器の導入も200万円程度で済んだという。
資金面の手当ては、日本政策金融公庫の創業融資を利用した。設備資金で1000万円(10年満期)、運転資金で500万円(7年満期)。いずれも1.4%という条件は破格の良さだ。個人事業なので、2年間は消費税の支払いが免除される。その後法人化することを検討していた。
複雑な味のソースに込めたこだわり
「これで、できあがりです」
火を止めると、黒田がテーブルに皿を持ってきた。看板のソース焼きそばだ。特徴は麺だろう。長い時間をかけて開発したというソースがからむと、どんな味になるのだろうか。
「ソースがいい匂いだね」
「無添加なんです」
ぼくが褒めると、黒田がうれしそうに笑った。一口食べると、香ばしいソースの味が口のなかに広がっていく。甘みが強いながらも、麺の存在感に負けないように複雑な後味が残る。
「わかりますか? 唐辛子とニンニクを入れてるんです。単に甘いだけだと、お客さんも飽きちゃいますからね。ダシには鶏ガラを入れて、しょう油とみりんで割ってます。B級の感じを残しながらも、上品さを感じてほしいですからね」
「ずいぶん手をかけてるね」
「ソースが焼きそばの命ですから」
ソースにしょう油を入れたのは、日本食として焼きそばを味わってほしいからだという。