厳しい寒さで暖房用の電力需要が増えている。「EnergyShift」発行人の前田雄大さんは「日本の電力事情は厳しく、このままでは電力不足に陥る恐れがある。脱炭素どころか、稼働40年以上の老朽化した火力発電にも頼らざるを得ないのが日本の現状だ」という——。
暮れなずむ空に電線が映える(北海道・北見市)
写真=iStock.com/Yuto photographer
※写真はイメージです

「10年に1度の厳しい寒さ」で大ピンチ

電気は供給されて当たり前——。日本に住んでいる限り誰も疑いようのない常識だ。しかし、世界に目を向ければ、最近では中国、インドなどが電力危機に陥り、先進国の欧州でもLNG供給不足に端を発して電力危機が発生した。

こうした一連の電力危機は2021年の世界のトレンドと言っても過言ではない。

日本でも2020年冬にLNG不足などから電力不足に陥るリスクが生じ、電力卸市場では価格が高騰した結果、複数の新電力が経営危機に陥る事態になった。

一過性のものと思われたが、ここに来て、日本の電力不足や価格高騰のリスクは、構造的な問題であるとの深刻な懸念が浮上してきた。

特にこの冬は「10年に1度の厳しい寒さ」と見込まれ、電力会社は老朽化した火力発電所を稼働するなどして寒波による電力需要増大に備える。

「カーボンニュートラル」に向けて再生可能エネルギーの普及がクローズアップされるなか、日本の電力事情はそれ以前の問題を抱えていると言える。

LNGは日本の生命線

日本の電力構成の肝は液化天然ガス(以下、LNG)だ。『エネルギー白書2021』によると、2019年度の電源構成はLNGが37.1%を占めた。日本はつい先日まで世界一のLNG輸入国であった。

国際社会からやり玉に挙がるのが石炭火力だが、LNGはそれに比べてCO2排出量が少ない。そのためLNGは日本のエネルギー政策上、低炭素社会に移行する一つの手段と考えられてきた。

この傾向は日本だけではない。例えば、洋上風力の比率を高めているイギリスは、石炭火力への依存度を急速に低下させる一方、LNG火力の比率を上げている。欧州の大陸諸国ではロシアなどからパイプラインを通じてLNG供給を受ける体制を整え、LNGは現在の欧州のエネルギー政策の中で重要な位置づけを占めている。