脱炭素と電力の安定供給の両立はできるのか

世界ではエネルギー需要は伸び続けている。世界的な脱炭素のトレンドも加わり、化石燃料セクターへの投資には陰りが見えつつある。今年見られたような化石燃料セクター由来の供給不足や価格の高騰も今後は頻発してもおかしくない。

LNGに電力の4割弱、石炭に3割を頼る外部依存型の日本は、そうした外生的ショックに対して耐性があるとは言えない。

特にLNGは貯蔵ができず、リードタイムの長さから柔軟な追加調達がしにくい欠点がある。気候変動の進展によって電力需要の変動幅も予測がつきにくくなってきていることも、そこに輪をかける。

さらに今回、電力会社が燃料制約に直面している構造的な問題も明らかとなった。岸田文雄政権は電力の安定供給を前面に出しているが、昨冬から続く一連の電力問題は、そもそも外部依存する電源が安定しているのか、という根本的な問いを投げかけている。

前田雄大『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』(技術評論社)
前田雄大『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』(技術評論社)

COP26で世界的な脱炭素の方向性は不可逆なものとして確定をした。2050年カーボンニュートラルを掲げ、足元でも2030年温室効果ガス46%削減に向けて急ピッチで脱炭素化を進めていかなければならない状況に日本はある。

こうした石炭火力は減らさざるを得ない状況である一方、供給の観点からは故障リスクの高い老朽火力に頼らざるを得ないのが現状である。

この論点のほか、一定の発電量を維持する安定電源として、原子力をどう位置づけるのかも重要だ。エネルギーの外部依存の問題とともに、棚上げされてきた問題が、燃料制約の事案と密接に絡んでいることは言うまでもない。

エネルギー自給力に日本の命運がかかっている

いずれにしても、今回明らかとなったのは、従前通りの対処ができないということだ。世界規模で見れば、脱炭素で再エネへの移行が進む中でも、化石燃料であるLNGの不足、原油高騰、連動するかたちで石炭価格の上昇が起こることが浮き彫りになった。

しかも、気候変動の進展によって猛暑や寒波などの異常気象も増えており、電力需要のパターンも過去から逸脱する傾向にある。日本がコントロールできない外生的ショックが増えているのだ。

燃料制約が常態化し、毎年のように電力不足の危機が叫ばれるようでは、日本の経済にとってもじり貧となろう。島国で、エネルギー資源の乏しい日本が、どうやって自給力を高め外部依存性を減らしていくことができるか――。そこに日本の経済・社会の命運がかかっているといってもいい。

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