感染比率は飛沫感染が9割で接触感染が1割

私たち医療従事者の感染対策も、実は流行初期から大きく変わっていません。当初、新型コロナウイルスはまったく未知の存在でした。しかし、それが呼吸器感染症を起こす病原体であることは間違いないわけで、そうである以上、やるべき対策はおのずと決まってきます。

2020年1月、NCGMと国立感染症研究所は共同で感染対策の指針を出していますが、この指針は今もほとんど変わっていません。新型コロナの主な感染経路は、飛沫感染と接触感染です。比率で見ると飛沫感染が全体の約90%。接触感染が約10%です。いわゆる狭義の空気感染は起こりません。

ただし、換気の悪い密閉された空間では、飛沫が本来飛ぶ距離(最大2メートル程度)を超えて「空気感染のように広がる」ケースがあります。これは日本では「マイクロ飛沫」と呼ばれていて、マイクロ飛沫による感染も起こり得ると考えられていますが、それも含めて飛沫感染は全体の約90%です。

接触感染が全体の10%というのは、あくまでも頻度の問題です。リスクが低いわけではないし、「飛沫だけ気をつければいい」とか「手洗いはあまり気にしなくていい」ということではありません。接触感染は今も起きていますから、今後も引き続きこまめな手洗いや手指消毒を心がけることが必要です。

エアロゾルにおける空中ウイルス感染
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「うつす人」と「うつさない人」はなにが違うのか

感染症には「20/80ルール」というものがあります。

感染者全体を調べると、人にうつしているのは約2割で、残りの約8割は誰にもうつしていないケースが多く、この現象が「20/80ルール」と呼ばれているのです。新型コロナにもこのルールはあてはまります。

これについてはいくつか報告があって、たとえば2020年3月に発表された厚生労働省対策本部クラスター対策班の調査報告も、「20/80ルール」を裏づけるものでした。全体の2割しか人にうつしていないのに感染が世界中に広がったのは、一人でたくさんの人にうつす人がいるからです。

厚労省クラスター対策班の調査報告では、最大で1人が12人にうつしていた事例がありました。1人でたくさんの人に感染を広げる人を「スーパー・スプレッダー」と言います。ASESやMERSでもスーパー・スプレッダーによる感染拡大は起きていて、韓国でMERSが流行したときは1人で86人に感染を広げた事例があります。

まわりにうつす人、うつさない人がいるのはなぜなのか。これはおそらく、個人の特性ではなく、環境に左右される問題だと思います。「たくさんうつす」という個人的特性を持っている人がいるわけではなく、換気の悪い三密の環境にいた人が多くの人たちに感染を広げた、ということだと私は考えています。

人にうつす人、うつさない人がいる理由はまだ完全には解明されていません。たとえば「女性と男性と比べると、女性のほうが人にうつしやすいのではないか」という報告もあるのですが、私は環境要因のほうが大きいと考えます。