賃上げ企業に税制上の優遇措置を与える仕組み

岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」の柱のひとつとされる「賃上げ税制」の具体的な内容が固まった。12月10日に自民党の税制調査会がまとめた「税制改正大綱」に盛り込まれた。賃上げをした企業に税制上の優遇措置を与える仕組みで、実は「新しい」ものではなく、以前からある制度の、法人税から差し引く控除率を拡充する。企業に賃上げさせるために、政府が優遇措置を講じる「太陽政策」だが、果たしてこれで企業は給与引き上げに動くのか。開始前から疑問視する向きも多い。

閣議に臨む岸田文雄首相=2021年12月10日、首相官邸
写真=時事通信フォト
閣議に臨む岸田文雄首相=2021年12月10日、首相官邸

現在の制度では、大企業や中堅企業の場合、新規採用した従業員の給与やボーナスなどを増やすと「支給額」の15%を上限に法人税から控除できる。さらに従業員の教育訓練費を増やした場合は、控除率が5%上乗せされ、20%になる。また、中小企業では、従業員全体の給与の総額などを増やすと、「増加額」の15%を法人税から控除。さらに教育訓練費などを増やすと控除率は10%上乗せされ、25%になる。

大企業は最大30%、中小企業は最大40%の控除だが…

今回の税制改正では、大企業や中堅企業の場合、控除率を最大30%、中小企業の場合40%にまで引き上げる。具体的には、大企業・中堅企業の場合、給与やボーナスの総額を前年度より3%以上増やすと、従業員全体の給与増加額の15%を法人税から控除できる。4%以上増やした場合は、25%差し引けるようになる。さらに教育訓練費を前の年度より20%以上増やすと5%分上乗せされる仕組みで、控除率は最大30%となる。

中小企業の場合は、従業員全体を対象に給与やボーナスの総額が前の年度より1.5%以上増えた場合、「増加額」の15%分を法人税から差し引けるほか、2.5%以上増えていれば30%分まで控除できる。さらに、教育訓練費を10%以上増やした場合には10%分上乗せし、控除率は最大40%となるという内容だ。

財務省の役人が考えそうな極めて細かい「仕掛け」だが、これで企業経営者が賃上げしようと思うかどうかだ。