内部留保を給与に回す経営者はいない

財務省がまとめた2020年度の法人企業統計によると、新型コロナの影響もあり、企業全体(金融業、保険業を除く)の売上高は8.1%と大きく減った。経常利益は12.0%の減少である。人件費の総額も195兆円あまりと3.4%減っている。売り上げや利益の減少率ほど人件費が減らないのはある意味当然だ。ところが、企業の内部留保(利益剰余金)は484兆円と前年度に比べて10兆円近く増え、過去最高を記録した。コロナ下にあっても企業の内部留保は増え続けているのだ。

東京の街並み
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内部留保をため込んでいるのだから、もっと給与に回せるだろう、というのが政府の見方だろう。だが、利益剰余金は法人税を支払った後の貯蓄だから、それを取り崩して給与に回すということにはならない。内部留保を減らすために、赤字になっても良いというわけに企業経営者はいかないのだ。赤字になれば、経営責任が問われ、経営者のクビが飛びかねないし、当然、株主に配当もできなくなる。

法人税を引き上げれば、賃上げが始まるはずだ

では、どうすれば、賃上げが始まるのか。

企業に対する「太陽政策」を止めることではないか。法人税を引き上げるのだ。法人税率そのものは国際競争の観点から日本だけが高くするわけにはいかないのは分かる。だったら、さまざまな税制上の恩典、租税特別措置と呼ばれる優遇策をいったんすべて廃止したらどうだろうか。本来、税制は簡素でなければいけないと教科書にはある。ところが、日本の税制は極めて複雑だ。まして、今回拡充する「賃上げ税制」など優遇措置が乱立していて、企業の税務担当者もすべてを把握することができない。そうした措置の中には特定の業界だけがメリットを受ける税制もあり、そもそも公平かどうかも分からない。

そうした乱立する「太陽政策」をいったん見直せば、「どうせ税金を払うくらいならば給与を増やそう」という行動に出るのではないか。

さらに、「北風政策」も有効かもしれない。利益剰余金に「課税」すべきだという議論は前々からある。だが、利益剰余金は法人税を払った後の内部留保だから、そこに課税するのは「二重課税」になるため、経済界は真っ向から反対する。だが、企業規模に見合うある一定の利益剰余金の割合を超過した分については、課税しても良いのではないか。そうすれば、無駄に内部留保を積み上げる企業も減るだろう。