毒母とアダルトチルドレン娘の介護生活

母親は現在71歳。週2回のデイサービスと、週1回の訪問歯科を利用している。だが、多くの介護者が悩んでいるように、門脇さんも、なかなかスムーズにデイに行ってくれない母親に悩まされた。

「病気持ちの私のためにも行ってほしい!」と何度頼んでもダメなため、門脇さんは、「明日デイに行かなかったら、このまま罵倒されながら姉と暮らすか、妹と暮らしてすぐに施設に入れられるか、頑張ってデイに行って私と暮らすか、3択を迫ろうかな。母には酷かな……」と思ったが、結局迫らなかった。

ケアマネジャーに相談すると、「対策を考えます」とのこと。

「ケアマネさんは母のことだけでなく、心療内科医に『統合失調症の手前』だと言われた私のことも気にかけてくれ、『できるだけ支えていきます。何かあったら言ってください』と言ってもらえました。いろいろ気遣ってくれて、ありがたいと思っています」

翌週、母親はケアマネと訪問看護師の説得によって、やっとデイサービスに行った。その日帰宅すると、「前より身体が動かなくなっていて、やっぱり週2回行かなあかんわ」とご機嫌だった。

「母にとってデイサービスは、“運動しに行く場所”で、若いスタッフさんとおしゃべりできて、気分転換になってるように思います」

シニアの手を握る介護者の手元
写真=iStock.com/Chinnapong
※写真はイメージです

今でこそ、門脇さんはケアマネや訪問看護師などとのコミュニケーションがとれるようになってきたが、当初は電話ひとつかけるのも重労働だった。門脇さんは姉のせいで、すっかり電話恐怖症になってしまっていたのだ。電話をかけるまでの緊張と、かけた後にどっと疲れが押し寄せ、数時間寝込んでしまうこともあった。

「別居してからしょっちゅう姉から電話があり、出るといつも怒っていて、出ないと家まで来て怒鳴り散らされるため、電話の呼び出し音を聞くと動悸どうきがするようになりました。電話恐怖症になった決定的な瞬間は、2011年ごろに、唯一健在だった母方の祖母が亡くなって葬儀をした時の出来事でした。姉に連絡したら、『連絡が遅い! うちの近くで葬儀をしろ!』『勝手なことするな! 葬儀には行かない!』と叫び散らし、私はブチ切れるのを我慢しているうちに、また動悸と胸焼けと震えとパニックで寝込んでしまいました」

一方、母親は、自分が認知症と診断されてから、門脇さんに依存するようになっていった。

「今、病気の私がなぜ母の面倒をみているのか、不思議になることがあります。健康体で、母の愛情を一身に受けた妹が一切ノータッチなのも不思議です。私はものすごく調子が悪くなり、薬を飲んで数時間うずくまっていることがあるのですが、そんな私の姿を見ても、構わず通り過ぎる母も不思議です。母は私が子供の頃からそうでしたが、今は『私に何かあったらどうするんだろう?』って思います」