「劇的な革新を起こす50社」のトップに

モデルナもまた、既存の製薬企業が採用してこなかったテクノロジーや発想で、製薬業界の新しい領域を切り開いてきています。そのことが一般に知られることになったのが、モデルナが新型コロナウイルス・ワクチン「mRNA-1273」を販売・出荷した2020年から遡ること5年前の2015年でした。

2015年5月、経済ニュース専門放送局のCNBCが「ディスラプター50企業」を発表しました。「ディスラプター50企業」とは、16の事業領域から既存ビジネスをディスラプトして劇的な革新を起こす企業50社を選定したものです。

テスラのイーロン・マスクCEOが創業した宇宙開発企業「スペースX」、ライドシェア・プラットフォーム「ウーバー」、民泊プラットフォーム「Airbnb(エアビーアンドビー)」、音楽やポッドキャストのストリーミングサービス「Spotify(スポティファイ)」など、今や広く知れ渡った多くのベンチャー企業が名を連ねていました。そして、ディスラプター50社のトップに立ったのが、その前年にも8位につけていたモデルナ(旧名モデルナ・セラピューティクス)でした。

ファイザーとモデルナの新型コロナワクチン
写真=iStock.com/carmengabriela
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疾患ごとに作るのではなく、一度で複数の疾患とたたかえる

その際、CNBCはモデルナについての評として次のコメントを残しています。

「想像してみてください。人体そのものが病気を治すのに必要とされる薬を作ることを。これが、モデルナがやろうとしていることです。(中略)モデルナの手法は、mRNAを使用して人体の細胞に指示またはコードを与え、糖尿病や心臓病からがんに至るまですべての種類の病気とたたかうために、タンパク質と抗体を作製するというものです。

モデルナが創業間もない他のバイオテクノロジー企業に勝る主なアドバンテージの一つは、そのmRNAが、疾患ごとに一つひとつ薬物療法を定義して作成するという典型的で時間のかかる道程をたどるのではなく、一度に複数の疾患とたたかうことに集中することができる点です」(CNBC 2015年5月12日、2016年3月1日更新、筆者訳)

このCNBCのコメントで言及された「mRNA」を使用した手法こそ、モデルナが採用するテクノロジーや発想です。mRNAというバイオテクノロジーの専門用語は、モデルナの戦略を語る上で絶対に外すことのできないとても重要な単語です。mRNAとは「自分の細胞が自らタンパク質を作るための設計図」と覚えていただければと思います。