※本稿は、高橋克英『地銀消滅』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。
デジタル人材の育成と確保は喫緊の課題
地銀では、人員削減の一環として、新卒採用者数を絞り込んでいる。その一方で、デジタル化に対応できるデジタル人材を揃える必要にも迫られている。
デジタル化に関する研修は、どの地銀も緒についたばかりだ。もっとも、こうしたデジタル人材に関しては、特に、自前の人材をいくら行内研修や外部派遣で育成しようとしても限界があるのも事実である。外部からの中途採用や、既存行員に対して専門職としてのインセンティブ供与が本質的な解決策ともいえる。
フィンテックやキャッシュレスを導入したものの、動かす仕組みを理解し、アップデートできる銀行員は数える程しかなく、結局、提携するシステムベンダーや新興IT企業など異業種に丸投げし、ブラックボックス化するという。基幹システム開発でもみられた過去の二の舞を避けるためにも、自前のデジタル人材の確保は欠かせない。
デジタル人材とは、具体的には、システム企画開発はむろん、クラウド、システム、ビッグデータ、サイバーセキュリティ関連の専門職、データサイエンティスト、金融工学・統計学専門職、アプリなどデジタルプロダクトデザイナーなどを指す。
世間でも大きく批判されたみずほFGの大規模なシステム障害(2021年2月)に隠れているが、同時期に前後して、静岡銀行や鹿児島銀行(鹿児島市)、NTTデータによる地銀アプリなどで、システムトラブルが発生している。メガバンク同様、地銀におけるデジタル人材の育成と確保は喫緊の課題である。
デジタル人材以外では、コンプライアンス専門職、資産運用アドバイザー、事業承継・相続に関する専門職なども、地銀にとってこれから中途採用が必要な人材である。
あえて地銀を選んでもらうには高待遇が必須
デジタル人材の採用は、比較的若い年代の採用者に高額の報酬を支払うことになるケースが想定されるため、人事制度・職種構成の再構築、人件費の効果的な配賦の見直し、事実上の年功序列制や終身雇用を前提としてきた地銀カルチャーそのものの変化をもたらすことになる。
もっとも、「なぜGAFAや大手DX企業でなく、わざわざ地銀に」「なぜ、起業するのではなく、地銀に就職するのか」という素朴な疑問点が解決されない限り、地銀のデジタル人材の採用は苦戦するはずだ。
優秀とされるデジタル人材にとって、あまたある選択肢のなかで、特別な事情か思い入れがない限り、わざわざ地銀という硬直化した組織に好んで入るもの好きはいないだろう。
解決策は、シンプルながら、高待遇の提示だ。報酬はむろん、デジタル人材が求めるのは自由度だ。業務における権限、勤務体系、勤務時間、副業や兼業是認、福利厚生など柔軟な対応が必要となるだろう。
デジタル人材の受け入れを見越して、地銀各行でも副業・兼業を解禁する動きが出てきている。行員が、自ら経営する事業や起業、業務の委託、他社の役員就任、親族の事業への参加に加え、一定条件のもと他社と雇用契約を結ぶことなどが想定されるだろう。