雇用維持を前提にしたビジネスモデルは諦めるべきだ

地銀にとって人員の削減は不可避の状況ながら、むろん、人員削減は簡単におこなうべきものではない。

地銀にとって、新卒採用して、多くの研修・勉強会を施し、資格取得を支援し、福利厚生を充実させてきた人材である以上は、経営の根幹を成す大切な資源となる。

一方で、人材への支援を充実させ丸抱えすればするほど、人材は手放せなくなる。経費もかかる。実際、第一地銀全体の経費2兆2000億円のうち、人件費は1兆1000億円で49.3パーセントとほぼ半分を占めている(2020年度)。ちなみに、ネット銀行大手の一角である大和ネクスト銀行の営業経費に占める人件費の割合は、なんと17.0パーセントに過ぎない(2020年度)。

地銀は、雇用維持→店舗維持→貸出量の追求→競争激化→金利低下→収益低下→コスト削減→商品・サービスの低下→顧客離反→店舗と雇用の維持が困難、という悪循環に陥っているのだ。

もう人材を過保護に最後まで囲わないことだ。多様な雇用形態が生まれている現在社会において、地銀は、雇用維持を前提としたビジネスモデルからの脱却を決断する時期に来ている。

多様な働き方を受け入れ、勤務時間ではなく、生産性や成果で評価される人事体系を作るしかない。そして、組織の肥大化や会議の重複化の是正、株式会社として収益や業績をより意識した経営を目指すことが必要になる。

根本的な、職場の構造や銀行カルチャーを変えない限り、地銀の内部崩壊は進み、「地銀消滅」へのカウントダウンが止まることはないだろう。

地方銀行員が県庁や市役所に転職している

三重苦に苦しむ銀行に見切りをつけて、地銀でも多くの世代の銀行員の流出が続いている。20代から30代だけでなく、40代にも及んでいる。実際、「銀行員、転職」とネットやスマホで検索すると、ずらりと様々な転職サイトやSNSの体験談やアドバイスが出てくる。

かつての銀行員の転職や退職では、家業を継ぐことを除けば、銀行から銀行、銀行から証券会社や外資系金融会社などが主流だったが、いまは様変わりをしたようだ。

高橋克英『地銀消滅』(平凡社新書)
高橋克英『地銀消滅』(平凡社新書)

流行りのスタートアップ企業やベンチャー企業の立ち上げや独立、コンサルティング会社やDX企業に転職かというと、メガバンクはともかく、地銀ではそうではないという。

地銀の場合、県庁や市役所といった地元の自治体や、JAバンクグループや日本政策金融公庫などの政府系金融機関などに転職するケースが増えているというのだ。自治体採用においては、20代であれば、一般的な公務員試験を、30代や40代であれば、社会人経験者採用枠をパスして採用されたりするということだ。

地銀を選んだ若者は、あくまで保守王道を極めるため、より保守的な転職先を選んでいるのが興味深い。もともと、地元では保守的で安定的だった地銀を見限り、さらなる安定と保守を求めるという。若手行員の嗅覚は敏感である。

地銀はともかく、確かに、県庁、市役所、JAバンク、政府系金融機関がこの先も簡単に消滅することはないだろう。

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