「美大卒は就職先が少ない」のウソ

ところで、「いくら採用が増えたといっても、美大や音大など芸術系の大学は企業からの求人が少ないんじゃないの?」と思うかもしれません。

実はあまり知られていないことなのですが、私の卒業した京都芸大のデザイン科の同級生たちは、ほぼ全員、誰もが名前を知るような大企業に就職しています。制作した作品を見てもらえば実力がすぐわかるので、就職試験すらほとんどない場合もあります。

ずいぶん前のことになりますが、私の場合はどうだったかというと、最初はある大企業の宣伝部に入ろうと思っていましたが、インターンを終えたあと落ちてしまいました。ほとんどの同級生が1社目で決まりますし、インターンにまで参加して落ちるということはまずないので、

「お前、何をやらかしたんだ」

と教授も驚いている。

実はインターン後の面接の際に人事部の方から、「いま自分の個性だと思っているものは個性でも何でもない。個性は入社してから(会社に合わせて)つくるものだ」と言われたので、若かった私はその言葉に「えっ?!」と反発してしまったのです。その5分後には大学に電話連絡があり、不合格が告げられました。

日本の大企業と相性が悪いことも

教授には、「次の会社の面接では変なこと言うなよ。後輩が苦労するんだから(笑)」とたしなめられましたが、じつは、アート系の人材と日本の大企業は相性がよくないこともあります。企業側からいえば、「人と違う発想をする社員=ほかの社員とは違う行動をとる、扱いにくい社員」ということになる可能性があるからです。

これは何かで読んだ話ですが、かつてのソニーでは、何かすごいものを思いついたら、直属の上司にはとにかく隠しておけといわれていたそうです。それで社長の盛田昭夫さんが通りかかったら、お殿さまに直訴するように、「こんなのをつくったんですけど」と言って見せる。順番に通していったら新しいものはつぶされる可能性大だけれど、一番の決定権を持つ人に見せれば、「これはすごいな」と言ってもらえる可能性があるといわれていた。つまり会社組織が大きくなると、ユニークな人材がいてもその能力を引き出すのが難しくなってくるということでしょう。

しかしMBA重視型の発想では行き詰まって、アート系人材の能力に賭けると決めたのであれば、次は彼らの自由な発想をどれだけ活かせるかという企業の度量が試されます。こういう人たちを採用するにあたり一番大変なのは、その上司が自分にまったくない発想に接したときに、どこまで許容できるかであると言えます。日本の企業や社会の中で、ユニークな思考や発想のできる人が今後どれだけ活躍できるようになるか、注目していきたいと思います。

(構成=長山清子)
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