海外ではほとんどの国が夫婦別姓を認め、結婚時に姓を選択できるようになっている。さらには「同性婚」を認める国も増えている。一方、日本はどちらについても議論すら進んでいない。ジャーナリストの池上彰さんは「夫婦別姓は中国や韓国でも認められている。このままでは日本は世界から取り残されてしまう」という――。

※本稿は、池上彰『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』(大和書房)の一部を再編集したものです。

夫婦別姓に合憲の判断を下した日本の最高裁

2015年と21年、最高裁判所は2度にわたって、民法の夫婦同姓を定めた規定について、「合憲」であるとの判断を示しています。憲法には違反していないということです。

夫婦別姓を求めた家事審判の特別抗告審で、最高裁へ向かう申立人ら=2021年6月23日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
夫婦別姓を求めた家事審判の特別抗告審で、最高裁へ向かう申立人ら=2021年6月23日、東京都千代田区

ただし、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」としてその是非を国会にあずける形になっています。つまり、いまの規定は憲法違反ではないが、夫婦別姓を実現したければ国会で、そういう法律を作りなさい、と宣言したわけです。

選択的夫婦別姓については、法務省の法制審議会によって幾度となく答申されていますが、いまだ与党からの法案の提出に至っていません。その最大の理由は自民党の保守派議員の反対によるもので、彼らは「家族の一体感が損なわれる」「子の姓の安定性がなくなる」と言っています。要は、家制度の崩壊につながるから、ということなのですが、夫婦が別姓を選択したからといって家族がバラバラになったりするでしょうか。

安倍元首相の「秘蔵っ子」と呼ばれ、防衛大臣を務めた稲田朋美議員は、以前は夫婦別姓に反対していました。ところが賛成を表明した途端、保守議員の支持団体である「日本会議」は距離を置くようになり、稲田議員は神道政治連盟の国会議員団体の事務局長も更迭されました。

2021年には、自民党の国会議員有志50人が、選択的夫婦別姓制度に賛同する地方議員に対し、慎重な検討を求める文書を送っていたことが発覚しました。この有志には高市早苗、片山さつき、丸川珠代といった女性の閣僚経験者も名を連ねています。つまり自民党の保守派として後ろ盾を失わないためにも、「夫婦別姓」に反対しようという意図が見えます。

こういった保守政治をとりまく古い意識と環境のために、なかなか前進できないでいるのが現状です。