なぜオペラのキャストに日本人の名前がないのか
東京オリンピックで日本選手は58のメダルを獲得し、そのうち27は金メダルだった。過去最多はリオ大会の41、金メダルの数はアテネ大会の16から、大幅に記録を更新しての史上最多である。
開催国が有利といわれるにせよ、多くの競技で日本の選手の技能レベルが向上しているのは間違いない。欧米やアフリカなどの選手とくらべ、フィジカル面でハンデを背負う競技も多いが、よく克服しているのは、同じ日本人として誇らしい。
スポーツにかぎらない。バレエ・ダンサーにせよ、ピアノをはじめとする楽器にせよ、技量が問われる分野で、このところ日本人の活躍はめざましい。
その一方、日本人が国際的になかなか活躍できずにいる分野もあって、その一つにオペラの歌唱が挙げられる。新型コロナウイルスの感染が拡大する前まで、私は欧米で毎年、少なくとも十数公演のオペラを鑑賞していたが、残念ながら、キャストに日本人の名が含まれる公演には、まれにしか出会わなかった。
声楽家の数は決して少なくない
オペラとは、要するに「セリフが歌われる音楽劇」のこと。だから歌手の技量が肝心かなめで、しかもポップスなどと違い、拡声器を通さない生の声を、オーケストラを突き抜けて客席まで響かせなければならない。スポーツにも似た、鍛え抜かれた技量が問われるが、それを習得した日本人が少ないということだろうか。
しかし、実は日本は声楽大国なのだ。日本を代表する声楽家の組織に二期会と藤原歌劇団があり、所属歌手は、前者は会員と準会員を合わせて約2700名、後者も団員と準団員の合計が1000人前後に達する。もちろん、両団体に所属していない日本人歌手も多い。
それなのに、海外の歌劇場からのオファーが少ないのは、フィジカルに問題があるからだろうか。
実際、日本人のフィジカルはオペラの発声に向かない、という指摘はあって、それは次のように説明される。白人や黒人は、正面から見た顔の横幅よりも頭の奥行きのほうが長いが、日本人は顔の横幅よりも頭の奥行きが短く、頭蓋骨の前後の長さが足りない。だから声が頭蓋骨のなかで共鳴しにくい——。