デイサービスの通常の男女比は8:2だが、ここは6:4

ただ、こうした機能回復を主眼としたデイサービスを運営するのは大変だそうです。

さまざまなリハビリメニューを行えるスペースが必要なことや複数種類のリハビリ機器をそろえなければならないこと。また、スタッフには通常の介護職員だけでなく、リハビリの指導を行える理学療法士などの専門家が必要であるため、運営は簡単ではありません。

加えてリハビリメニューは利用者個々の状態に応じて作成し、回復状況によっても修正を加える必要がある。細かな目配りしなければならない大変さがあるそうです。デイサービスの介護報酬には、そうした特別な出費や労力に対応する上乗せはありません。

「でも、要介護卒業や維持向上を目指すウチのようなデイサービスも必要だと思っています。ケアマネジャーさんが作成するケアプランは、心身の状態をよくすることを目標にすることが多いですが、それに対して、理学療法士として真摯に取り組む姿勢が必要だと思っています。これ以上、要介護度が上がらないようにするだけでも本当に大変なことです。歳は取りますから。しかし、ご本人が良くなろうという前向きの気持ちを持つことで、リハビリの効果が出て実際に要介護から卒業できれば本人はもちろんご家族も介護から解放されるわけですし」

デイサービスが抱える課題に「男性の利用者が少ない」ことが挙げられます。女性はコミュニケーション能力が高く、すぐに知り合いを作って1日を楽しく過ごすことができる。それに対して男性はそれができず居心地が悪いからだそうです。また、家族の都合で通われる方、年寄り扱いされて単純なレクリエーションをやらされたりすることにプライドが許さないのも要因のひとつだとされます。そのため全国平均の男女比は大体、女性8に対し男性が2です。

しかし、アクティの場合は女性6:男性4と男性の比率が高い。リハビリのためという明確な目標が持て、スポーツジムのような感覚で通えることがよいのでしょう。

施設のスタッフ
撮影=相沢光一
施設のスタッフ

Kさんも言います。

「リハビリはつらいと感じることもありますが、やり終えた時は一種の爽快感がありますし、一緒にメニューをこなした人とは会話が弾むんです。同じ思いを持つ仲間がたくさんいたから続けてこられ、ここまで回復できたんだと思います」

アクティが開設されたのは2013年。Kさんのように自力で立てなかった人が歩けるようになったり、要介護から卒業した人が出たりということが評判を呼び、現在の月間利用者は延べ約750人、1日の利用者は午前、午後とも常に40人の定員で埋まっている状態で、利用者枠が空くのを待つ、まさに行列のできるデイサービスになっているのです。

前田さんは言います。

「私どもの考えを理解し利用したいと言ってくださる方が増えてきたのはうれしいですね。スタッフもこの仕事にやりがいを感じています。リハビリを重ねることで、少しずつですが着実に機能回復していく。また、それに従って表情は明るくなり快活になっていかれる方が多い。そうした変化を見ると、自分がお役に立てているんだと実感できます。運営は大変ですが、この事業を始めてよかったと思っています」

1日を穏やかに過ごすデイサービスはもちろん必要です。その一方で、アクティのような「要介護状態をなんとか食い止める」そして「改善」を目指す前向きな方向性のデイサービスがもっとあってもいいのではないか。利用者の「元気になろう」とする姿と笑顔を見て、そう感じました。

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